井上尚弥VSフルトンの決戦まであと3日 米国識者5人が勝敗予想 4人が尚弥を支持
WBC&WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチ スティーブン・フルトン―井上尚弥 ( 2023年7月25日 有明アリーナ )
前4団体統一世界バンタム級王者・井上尚弥(30=大橋)がWBC&WBO世界スーパーバンタム級2団体統一王者スティーブン・フルトン(29=米国)に挑む25日の決戦まで残り3日。海外メディアの注目度も高まっている中、米国のボクシング専門メディアはどう見ているか。識者5人が両者を比較しながら勝敗を予想。本紙通信員を務めるニューヨーク在住のスポーツライター杉浦大介氏が取材した。
◆スティーブ・キム(元ESPN.comのメインライター、現在はSNAC.comで連載コラムを執筆)
「井上にとっての鍵は、今回の相手はアウトボクシングがうまく、自身より骨格的に大きな相手であると理解すること。ワンパンチでは試合は終わらないはずで、それはもともとライトフライ級でキャリアをスタートさせ、ここでスーパーバンタム級にまで上げてきた選手にとって自然なことだ。序盤の井上はスピードとクイックネスで上回り、ボリュームパンチを出すように心がけるべきだろう。
一方、フルトンがやるべきなのは、アウトボクシングを心がけ、必要以上に打ち合わないこと。井上の足を動かさせ、両足をセットした状態でパンチを出させないこと。それと同時に、下がるばかりでは井上を止められないだろうから、攻撃する際は少し強引に仕掛けなければいけない。ここで予想するなら、井上がこれまで過小評価されてきたスピード、クイックネスでフルトンとの距離を詰め、ボディを重点的に攻めるだろう。最終的には井上が10回KO勝ちを飾ると見る。
◆ハンス・セミストーデ(BoxingScene.comのライター。BWAA(全米ボクシング記者(BWAA)協会メンバー)
フルトンは井上のパワーを信じていない。井上はこれまでほとんどすべての対戦相手をKOしてきたが、その中でもフルトンは最も大きく、強い相手だ。井上は試合中、どこかでフルトンのリスペクトを勝ち取る必要がある。そしてどこかで仕掛けてくるフルトンの攻勢を逆手にとってダメージを与えなければいけない」。
フルトンのディフェンス面は過小評価されていて、特に足の動きは素晴らしい。井上は目の前にいるにもかかわらず、自分のパンチをかわし、カウンターまで決めてくる選手と対戦したことはないはずだ。井上の手は速いが、動きながらでも力のあるパンチが出せるかどうか?フルトンがコンスタントにアングルを変えてくる中でも、的確なパンチが放てるか?フルトンのフットワークが快調なら、これまで経験がないような態勢での戦いを井上に強いるだろう。フルトンのKOは考えにくいが、ディフェンスをタイムリーなオフェンスにつなげることはできる。
予想は極めて難しい。フルトンは常に勝利の術を見つけることができる優れたボクサーだ。ただ、問題は、今回の相手が今まさに全盛期にいる歴史的なボクサーだということ。ここでは井上の判定勝ちを推したい。
◆エイブラハム・ゴンサレス(ProBoxTV plsのライター。BWAAメンバー)
現代のボクシング界で最高級のカードだ。どんなスタイルにでもアジャストできるだけの適応能力を持ったフルトンは、ダニエル・ローマン戦と同様に足を使うべきだろう。昇級後のパワーが未知数だったとしても、井上と電話ボックスの中で戦う(=接近戦)必要はない。エマヌエル・ロドリゲスが井上に対して短い間でも成功を収めたのは、オーバーハンドの右を使った攻撃だった。ただ、ロドリゲスは中間距離から抜け出すだけのスピードを持たなかったがためにKOされてしまった。フルトンのリングIQと距離感は現役最高級だけに、接近戦の打ち合いを避け、少し離れた距離からコンビネーションを決めようとするだろう。
井上のゲームプランはよりシンプルなはず。可能な限りのプレッシャーをかけ、強烈なボディブローを打ち込んで29歳のフルトンをスローダウンさせることだ。相手の逃げ場をなくすことが最も重要。それを早い段階から成功させた場合、ボディ打ちの効果もあってフルトンがスローダウンした後半、ビッグパンチを決めてストップ勝ちに持ち込めるのではないか。2020年、ジェイソン・モロニーをKOしたときのような戦い方が得策だろう。
両選手ともに勝ち残れるだけの武器を持っているが、この階級で戦った期間の長さが決め手になる。よりナチュラルなスーパーバンタム級選手であるフルトンが経験、リングIQ、フットワークを駆使し、判定勝ちを手にすると予想する。
◆ライアン・オハラ(NYFights.comのシニアライター。BWAAメンバー)
井上は相手の逃げ場をなくした上でジャブをつき、パワーショットにつなげたいところだ。罠を仕掛け、フルトンを躊躇わせ、適切な位置にいられなくようにすることが大事になる。両方とも好きな選手で、このスポーツにとって素晴らしいカードだが、やはり井上のとてつもないパワーが決め手になるように思う。フルトンの顎はエリートレベルのボクサーによって試されたことはないが、今戦はその時になる。ダウンを一度奪った上で井上が判定勝ちを飾るだろう」
◆ジェイク・ドノバン(BoxingScene.comのライター、編集者。BWAA副会長)
井上は階級を上げても自身の能力を保つことができ、フルトンは打ち合いたいという欲求に抗うことができる。そんな2人の対戦は、一般的に考えられているよりもはるかに際どい戦いになるだろう。多くの関係者が井上の勝利を予想しているのは理解できるが、一方で私たちはボクシング界のスターたちが階級を上げ、適性ウェイトで戦う選手たちに屈する姿も見てきた。フルトンがサイズの利を生かしてアウトボクシングし、これまでで最重量の井上を弱らせる姿も想像できる。フルトンがそれをやり遂げ、強打の井上との打ち合いを避けられた場合、一部で言われているように、“12ラウンドを通じて完璧に戦う”必要があるとは思わない。ただ、12ラウンズを賢明に戦わなければいけないというだけだ。賢明さが問われるのは井上も同じ。井上は自身の身体を理解し、骨格で勝り、これまでで最も強い相手をただ叩きのめそうとすべきではないことに気づいていることだろう
井上優位に傾いてはいるが、両者の差はごくわずかだ。井上とブランドン・フィゲロアはまったく違うタイプの選手だが、フルトン相手にうまくプレッシャーをかけなければいけない点は同じ。井上はフィゲロアのようにただ手数を出すのではなく、より効果的に重圧をかけられるだろう。フルトンが序盤はリードするかもしれないが、井上が後半に追い上げ、接戦ではあっても明白な判定勝利を挙げると見る。
◆ノニト・ドネア(世界5階級制覇王者、井上と2度対戦)
素晴らしいカード。井上はすごいボクサーであり、その実力を誇示しようとするだろうが、フルトンはタフな選手だ。フルトンは優れた技術を持ち、同時にラフな戦いにも対応できるボクサー。私も日本に行って生で観たいと思えるだけのマッチアップだ。
(過去に多くの苦戦をはねのけてきたことは)メンタリティの面でフルトンの助けにはなるのだろう。厳しい戦いになろうと、そこで屈しないことをフルトンは証明してきたのだから。ただ、(苦戦経験が少ないことも)また井上の力量の証明という考え方もできる。そして、たった1度だけでも、私との試合で苦境に陥った時、井上はそこから戦い抜いてタフさを示した。その点が決め手になるかはわからないが、井上にとって容易な戦いにはならないという点は同意する。フルトンは準備を整えてくるはずだし、知名度に対するハングリー精神も持っている。彼にとっては人生最大のファイト。この試合次第で、世界中の人がフルトンの存在に気づくという事実に彼自身が気づいているはずだ。
予想はとても難しい。フルトンが井上のパワーを恐れずに戦えたら、いい試合ができるだろう。ただ、フルトンが井上の破壊力を感じたとしたら、そこで話は変わってくる。フルトンはベストの状態で臨んでくるだろうし、彼の方が王者であること、ハングリー精神を備えていることを考慮し、わずかに分があるのかもしれない。井上は階級初戦でもあるだけに、ここではややフルトン優位としておきたい。
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