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吉田実代「戦うシングルマザー」肩書きに誇り「ボクシングで娘を大学まで入れる」アスリートの顔、ママの顔

[ 2022年6月30日 12:15 ]

「戦うシングルマザー」として知られる女子ボクシング・吉田実代と長女・実衣菜ちゃん
Photo By 提供写真

 5月30日に後楽園ホールで行われたWBO女子世界スーパーフライ級タイトルマッチ10回戦、王者として挑んだ吉田実代(34=三迫)。昨年6月に第1子を出産した挑戦者・小沢瑶生(37=フュチュール)との“ママ対決”に敗れ、世界女王の座を明け渡したが、その試合は自身のユーチューブチャンネルで生配信するなど、女子ボクシング界に新たな風を呼び込んだ。7月には渡米し、王座奪還へさらなる成長を見据える。7歳の愛娘の子育てに、競技に、SNSなどの普及活動。多忙な日々の原動力は?スポニチの取材に答え、“ママアスリート”としての苦悩や喜び、思いを明かした。

 「戦うシングルマザー」の愛称で知られる吉田は08年、20歳でハワイに留学し、格闘技と出会った。14年、プロボクシングに転向した矢先に妊娠が発覚し、一時は競技から遠ざかった。

 結婚、出産、離婚を経てリングに戻った。復帰直後は「“なんで今さらやるの”と、半分以上はすごい冷ややかな視線だった」という。それでも「何のために戻ってきたんだと言われて、私はやっぱりボクシングが好きだ。ママになってもチャンピオンになりたくて戻ってきたんだと思った」と競技への思いを再確認した。

 競技と育児を両立させながら強さを磨き、17年10月に初代日本女子バンタム級王座を獲得。18年8月には東洋太平洋女子同級王座に輝き、19年6月にはWBO女子世界スーパーフライ級王座を獲得し、同12月に初防衛にも成功した。

 しかし今年5月、「産後復帰戦」の小沢に1-2の判定負け。吉田は小沢の強さについて「母になった強さは私が一番よくわかっている」と自身の過去を重ねた。

 吉田の復帰初戦は「娘が7、8カ月の時」。沖縄での復帰戦だった。「ちょうど別居中で、子供を預かってくれる人がいなくて。沖縄に赤ちゃんを連れていけない…となったときに、尊敬する藤岡奈穂子さんが預かってくださって」と、世界5階級制覇した日本ボクシング界が誇るレジェンドが復帰を支えてくれたという。

 仲間に支えられ、競技を続けることができたが「子供がいるんだから普通に就職しろとか、親がいなくて預け先がないから鹿児島帰ればとか、子供がかわいそうだとか。シングルマザーということも重なってしまったと思うのですが、そういう声もあって。一戦も落とせないと思っていた」と当時の心境を振り返った。

 「一戦も落とせない」強い思いは結実し、娘が物心ついたときからずっと勝っていた。「1度、世界チャンピオンを失ったときはサイレンみたいに大泣きをして。会場がざわめくほど大きな声で泣いてしまった。その時のことを覚えているのか、泣いてしまうとお母さんに気を遣わせてしまうからと、今回はずっと下を向いてしくしくと泣いていたみたいで…」と今回の敗戦時の7歳娘・実衣菜ちゃんようすを回顧。「判定が出て、私の負けが決まった直後にLINEが届いて。“ママ、よくがんばったね。ママ大丈夫だからね”って。あんな小さな体で、いろいろなことを受け止めているんだなって。私でも悔しい、傷ついたという思いがある中、あんな小さな体であの年齢で…」と我が子の気持ちを思うと胸が締め付けられる思いだ。「だからこそ、背中を見せるしかないと思う」と娘のためにも闘い続ける覚悟を示す。

 試合後は実衣菜ちゃんの要望で「スターバックスでフラペチーノを飲んで、パンケーキを食べた」という。「パンケーキは私の趣味ですが…」と笑いつつ「サングラスを買ってほしいと言われて、渋谷・109に一緒に買いに行きました」と母の顔を見せた。「楽しいです。友達みたいな感じでもあるし、かわいい娘という感じでもある。いくつになってもこの子はかわいいだろうなと思います。大人になってもずっと」と顔をほころばせた。

 競技に母親業に多忙な中、ネガティブな感情になることは?という質問に対しては「ボクシングしている時だけはすべてを忘れられる。ボクシングが1番のストレス発散法。凄く楽しいです」と競技への愛を語る。「私はボクシングだったけど、違う趣味でもいいわけで。夢中になれるものが1つあるだけで人生うまくいく。ボクシングで娘も大学まで入れたい」と意気込む。

 吉田を語る上で「戦うシングルマザー」という“肩書き”は欠かせないが、この表現については「やっぱり知ってもらうことが一番だと思っているし、自分がやっている活動やシングルマザーであること、全部含めて誇りとプライドを持ってやっている」と歓迎している。

 「でも、やっぱり自分の中でもっともっとボクサーとしても一流になりたい。強くなりたいと言う思いがある」と本音も。「今の実力では胸を張れない。まだまだ強くなれると思う。“めっちゃ強いよね、でもシングルマザーらしいよ”と言われるくらい頑張りたい」と闘志を燃やしている。

 強さはもちろん、インパクトのある肩書きを持ち、競技外でも幅広く活動し女子ボクシングを引っ張る存在。競技を盛り上げるため「知ってもらうことが大切だし、『シングルマザー』と書かれていることによって勇気づけられる人もいるかもしれない」と話す。自分のため家族のため見えない誰かのために戦う吉田の姿は、これからも多くの人の力になる。

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