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“激闘王”八重樫、引退…37歳「限界感じていない」も勧告受け入れ 今後はマルチに活動

[ 2020年9月2日 05:30 ]

現役引退を表明した八重樫東は会見で涙を流す(大橋ジム提供)
Photo By 提供写真

 ボクシングの元世界3階級制覇王者、八重樫東(37=大橋)が1日、オンラインで記者会見し、現役引退を表明した。昨年12月にIBF世界フライ級王者モルティ・ムザラネ(南アフリカ)に9回TKO負けしたのが最後の試合となった。プロ通算35戦28勝(16KO)7敗。今後は大橋ジムでトレーナーを務めるほか、解説者やタレント、パーソナルトレーナーとマルチに活動していく。

 04年9月1日、大橋ジムに入門した八重樫は16年後の同じ日、プロ生活に終止符を打った。大橋秀行会長から“引退勧告”されたのは今年2月25日。「体力の限界を感じたわけではなく、やれと言われれば全然やれる」自信はあったが、会長の「もういいんじゃないか」の言葉を受け入れて引退を決意。「悔いはないです」。新型コロナウイルス感染拡大の影響でタイミングを逃し、この日の発表となった。

 貪欲に取り組んだ豊富な練習が不屈の男の支えだった。世界3階級制覇という偉業を達成する一方で、井岡一翔やローマン・ゴンサレスと死闘を演じ、世界戦だけで6敗を経験。「困難を乗り越えようと思っていたわけではない。自分を信じていただけ。僕が誇れることは世界王者になったことではなく、負けても立ち上がってきたこと」と胸を張った。

 本来はスピードとテクニックが持ち味ながら試合後に顔が別人のように腫れ上がるほど打ち合った「激闘王」。穏やかな表情で会見に臨んだが、3人の子供の話題になると声を詰まらせ涙した。

 「ロマゴンと試合が決まった時も“こいつらのために生きて帰るんだ”と思って命を懸けて試合をして…負けましたけど、あんなファイトできたのは子供たち3人の力だと思っています」

 今後は自らの肉体を“実験台”として培ったトレーニング法や減量法など豊富な知識と経験を後輩に伝えていく。「自分にとってのボクシングは人生を豊かにしてくれたもの。これからもボクシングに関わり、恩返ししていきたい」と次の人生を思い描いた。

 ▼大橋秀行会長 とても中身の濃い15年間でした。3階級制覇したこともそうだけど、八重樫のボクシングに対する姿勢は後輩たちに大切なものを残してくれた。今後は第二の八重樫をどんどん送り出したい。

 《八重樫激闘VTR》
 ☆井岡と統一戦(12年6月20日、大阪府立体育会館)11年10月にWBA世界ミニマム級王座を獲得した八重樫は初防衛戦でWBC同級王者・井岡一翔と対戦。当時、日本に世界王者が8人存在していた背景もあって国内初の世界2団体王座統一戦が実現した。序盤から互角の戦いで試合途中で目を腫らしながらも打撃戦を演じたが、1~2点の小差で0―3の判定負けし、王座から陥落。

 ☆ロマゴンと壮絶撃ち合い(14年9月5日、国立代々木第2体育館)13年4月にWBC世界フライ級王座を獲得して4度目の防衛戦。V3戦のリングで「こんな僕ですけど、やってもいいですか?」と当時39戦全勝で「軽量級最強」との呼び声も高かったローマン・ゴンサレスの挑戦を受けることを表明。ダウンを喫しプロ初のKO負けで王座を失ったが、“ロマゴン”との激しい打ち合いは敗れても称賛された。

 ◆八重樫 東(やえがし・あきら)1983年(昭58)2月25日生まれ、岩手県北上市出身の37歳。黒沢尻工―拓大。05年2月プロデビュー。11年10月にWBA世界ミニマム級王座、13年4月にWBC世界フライ級王座、15年12月にIBF世界ライトフライ級王座を獲得し、日本人男子3人目となる3階級制覇を達成した。1メートル60、リーチ1メートル64の右ボクサーファイター。

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