ドジャース・大谷はトレーディングカードの常識も変えた!1枚で4億7100万円で落札も
昨年12月中旬、ドジャース・大谷翔平投手(31)の野球カードがファナティクス社の競売で、300万ドル(約4億7100万円)で落札された。大谷の野球カード史上最高額を更新し、3月には日本国内でも展示された。「Monthly Shohei」5月編は、市場拡大が続くトレーディングカード業界に迫る。大谷の活躍が100年以上続く業界の活性化、新規ファン獲得に大きく貢献している。 (取材・奥田秀樹通信員)
アリゾナ州フェニックスの老舗カードショップ「バッターズボックス」のカウンターに、店主のデービッド・セドルマイヤーさん(55)は2つの古びた箱をそっと置いた。
トレーディング会社大手トップス社の1958年と1960年のガムパックの箱だ。どちらも「1セント(約2円)」と印字されている。「当時はこれにカードが12枚入っていた。中身はもうないけど、この箱自体がお宝なんだ」。カードがガムのおまけだった時代。この箱には現在、995ドル(約15万6200円)と800ドル(約12万5600円)の高値が付けられている。
米カード業界の歴史は古い。1870~1890年代にタバコ会社が箱を補強するための紙として、選手の写真カードを入れたのが始まりとされる。「バッターズボックス」は1980年代初頭に創業。「80年代半ばから後半はグッデン、カンセコ、マグワイアが人気でカードブームだったね」。しかし、その熱狂は長く続かなかった。トップス社やアッパーデック社の発行枚数はほぼ無制限。希少性が薄かった。
あれから40年。現代のカード業界は様変わりした。変えたのはファナティクス社のマイケル・ルービンCEOだ。21年に各リーグや選手会とカードのライセンス契約を結び、22年にはトップス社を買収した。80年代後半の失敗を教訓に、供給体制をテクノロジーで管理し、限定カードで希少価値を生んだ。
その市場をけん引している存在が大谷だ。昨年12月には実際に着用したユニホームのゴールドロゴ付きで1枚限定のカードが300万ドルで落札された。米競売サイトeBayでの26年のカード売り上げは、3月時点で約3678万ドル(約57億7400万円)と他のレジェンドアスリートを引き離しトップに立つ。鑑定会社PSAのカード鑑定数でも、大谷は8万8000枚以上で1位となっている。
セドルマイヤーさんは言う。「翔平は本当に特別だ。二刀流、劇的なWBC優勝、50―50(54本塁打&59盗塁)など永遠に語り継がれるシーンをつくってきた。人間的にも謙虚で、理想的なスポーツマン像に近い」
大谷は売上高だけでなく、カード発行のスピードさえも変えた。3月のWBCの台湾戦で満塁本塁打を放った際のジェスチャーが似ていると話題になり、プロレス団体「WWE」のジョン・シナとのコラボカードが36時間以内に発売された。SNS全盛の現代では“ミーム化”した瞬間に価値を持つ。大谷の場合は「全ての瞬間が歴史になる」と市場に受け止められている。
限定品に限らず、新人だった18年の大谷のカードは流通が1万5000枚以上と多いが、最近では900ドル(約14万円)以上で取引されている。24年12月時点の200ドル(約3万1400円)未満から異例の上げ幅だ。
セドルマイヤーさんの店に並ぶビンテージカードは、長い年月をかけて価値を築いてきた年代物だ。一方、大谷は一つのしぐささえ瞬時にカードへと変える。今、業界で起きている変化の中心に、間違いなく大谷がいる。そして次の瞬間もまた、新たな“価値”として刻まれていく。
≪コラボでHIT新たなファン層獲得≫トップス社の代表を務めるデービッド・ライナー氏は「彼はグローバルスーパースター。その活躍は売り上げ以上に、カードというカテゴリー全体を押し上げる」と大谷の影響力の大きさを語った。
コレクターの輪を広げる一つの方法がコラボカードの販売だ。大谷×ジョン・シナをはじめ、NBA、NFL、WWE、UEFAなど多くの競技の権利を有する同社は異競技コラボを何度も実行。ライナー氏は「そういうことができるのが我々の強み。そうやってファンを増やしていきたい」と世界中を対象としたビジネスをにらむ。
さらなるコレクターの獲得へ。ライナー氏は「大谷×アート界」の異色のコラボも予告した。狙いは野球やスポーツに根付いていない新たなファン層の獲得。ライナー氏も「“こんなことができるんだ”って皆さんを驚かせたい」とその時が待ち切れない様子だった。(小林 伊織)
▽トレーディングカード スポーツ選手、アニメのキャラクター、アイドルなどをカード化したもの。希少価値の高いものは「レアカード」として専門店やオークションなどで高額売買される。米国では1930年代から普及し、トップス社、パニーニ社などがしのぎを削る。2022年8月には、ヤンキースで活躍したミッキー・マントルの52年トップス社製の野球カードが、オークション史上最高額の1260万ドル(当時約17億4000万円)で落札された。
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