「地獄の伊東」ばり練習は必要か?中畑清氏 心を鍛える質より量、松井稼頭央氏 昭和と現代の融合を

[ 2025年12月20日 05:30 ]

中畑清氏(右)と松井稼頭央氏
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 原点回帰か、時代に逆行するのか。今秋のキャンプではロッテのサブロー新監督や、リーグ連覇を逃した巨人の阿部監督らが、「質よりも量」を求めてハードな練習を課した。トレーニング理論や栄養学の研究が進む中、絶対的な量の必要性とは。旬な話題に斬り込む企画「マイ・オピニオン」で、地獄の伊東キャンプを経験したスポニチ本紙評論家の中畑清氏(71)、大リーグでも7年間プレーした西武前監督の松井稼頭央氏(50)が、経験を基に量の大切さと、失ってはいけない視点を説いた。

 ≪中畑清氏 自分自身の限界を超える練習量を見直してほしい≫最近は1シーズン通してきちっと仕事できる選手が少なくなってきている。今季規定打席に到達したのはセ・リーグ18人、パ・リーグ22人。私が現役だった1980年代は両リーグとも30人はいた。

 今はそれだけ故障や体調不良で離脱する選手が多くなっているんだ。これじゃあチーム力が安定しない。今年一年ずっと戦力が整っていたのは阪神だけ。近本から中野、森下、佐藤輝、大山と1番から5番まで、ほぼフル出場。ぶっちぎり優勝したのも分かるよね。

 プロ野球全体の課題になってる故障者続出。ちゃんと鍛えてるのかなと思っていたら、秋季キャンプで新しい動きが出てきた。ロッテのサブロー新監督が「伊東キャンプを超える」とぶち上げ、巨人の阿部監督は「1日8時間練習」を打ち出した。質も大事だけど、量はもっと大事。「鉄は熱いうちに打て」という原点への回帰だ。

 伊東キャンプは長嶋監督率いる巨人が5位に沈んだ79年オフに敢行した秋季キャンプ。この年やっと1軍に定着した私を含む若手18選手が集められ、徹底的に鍛え上げられた。

 午前中はマンツーマンのノックを2時間。午後はフリー打撃にティー打撃、夜の素振りを加えて1日1000スイングがノルマだった。午後の締めはアップダウンの激しい馬場平のクロスカントリーロードのランニング。死ぬかと思った。

 それでも25日間、壊れる選手はいなかった。残ったのは「これだけ練習したんだから、結果がついてくるはずだ」という手応え。強い体と強い心が身についたように思う。

 「地獄の…」と形容されたキャンプに耐えたメンバーが中心となった80年は3位。長嶋監督はこの年退任したが、藤田監督を迎えた81年にリーグ優勝、日本一を果たした。

 ケガに負けない体をつくり上げるには一定の練習量が必要。反復練習によって技術も磨かれる。「練習はうそをつかない」「努力なくして勝利なし」。古いと言われても、いいものはいいのだ。

 最新機器による身体データがあふれる今こそ、自分自身の限界を超える練習量を見直してほしい。そして強い心。ID野球のノムさん(野村克也氏)も「最後に勝つのは根性や」と話してた。

 メンタルを鍛えるのも、その裏付けとなる練習量だと思っている。

 ≪松井稼頭央氏「体と思考」ハイブリッドな形に≫ロッテのサブロー新監督はPL学園の後輩。どんな指導ぶりか注目していました。「昭和の野球」。厳しい練習で数をこなすのは非常に大切だと僕も思います。打撃なら振って、振って体に覚え込ませる。守備もそう。基本的な動きを繰り返し、気付いたら体が勝手にボールを捕っていた、バットが自然と出ていた――。究極的にはこれが理想です。

 キャンプという形で、チーム全体で行うことにも意味があります。一人で厳しい練習を続けるのはどうしても難しい。知らず知らずのうちに自分で自分にストップをかけてしまいます。プロの世界は厳しい、しんどいはある意味当たり前で、己の限界を知ることもアスリートとして大事です。秋にとにかく数をこなせば、「これだけできたんだ」と選手も自信につながる。長いシーズンを戦う体力も蓄え、翌春には同時に質も求める。このサイクルが重要でしょう。

 全員でやることで厳しさをより追い求められますが、個人での追求ももちろん必要です。大リーグは全体練習の時間が短い一方、誰も見ていないところで懸命に汗を流す。厳しい契約社会。キャンプなどで次々に解雇されるような環境では、一人で練習する時間で大きな差が生まれます。

 メッツに在籍していた時のことです。キャンプの夜、ガレージから音が聞こえるので見てみると、通算473本塁打のデルガドが素振りしていました。あれだけの選手が見えないところで努力している。彼以上の努力をしないと生き残れないと思い知らされました。

 要は自分を信じること。信じるための根拠を手に入れることです。西武2軍監督だった時は、秋のキャンプなど朝から晩まで選手にはバットを振ってもらいました。1年でも長くプレーをして、活躍してほしい。そのための土台をつくり、限られた時間の中で自信を手にできるか。そこに振る意味があります。

 「振って体で覚える、感じる」だった僕の選手時代と違って、今は科学的なデータ、アプローチも増え、より効果的なトレーニングも可能になっています。うらやましいですね。長く継承されてきた昭和の練習法に現代の方法論をうまくミックスし、「体と思考」のハイブリッドな形に変化させる。根っこは変えることなく、時代に合わせた進化ができれば最高だと思います。

 ≪巨人・阿部監督「とにかく量をこなすこと」≫巨人・阿部監督は東京都稲城市のジャイアンツタウンスタジアムと川崎市のジャイアンツ球場室内で実施した若手主体の秋季キャンプで「とにかく量をこなすこと」を課した。主砲・岡本が不在の来季へ、底上げは不可欠。午前9時に始まり、午後5時ごろまでバットを振る選手の姿があった。「打って打って点を取るのはなかなか難しいし、エンドランとか作戦面の失敗が目立った」と機動力を意識した練習を重視。「連係のミスが多かった」と守備の連係プレーも時間を割いた。

 ≪ロッテ・サブロー新監督「楽しくキツいのが理想」≫ロッテの宮崎県都城市での秋季キャンプでサブロー新監督は「昭和のキャンプ」を打ち出し、量と質の両方を求めた。長い日は練習時間が8時間に及び、メニューもボール2ケース(約240個)を連続して打つティー打撃などハードな内容に悲鳴を上げる選手が続出。それでも「楽しくキツいのが理想」と語る指揮官の下、明るい雰囲気で20日間を過ごした。「伝統の伊東キャンプを超える」と臨んだ指揮官は、「やればできる、ということは分かった。(来春も)厳しいキャンプであることは間違いない」と明言している。

 ≪オイシックスCBO・桑田真澄氏「練習、練習、練習はうまくならない」≫今季まで巨人2軍監督を務め、オイシックスのチーフ・ベースボール・オフィサーに就任した桑田真澄氏は、対照的に18日の就任会見で育成の3つのキーワードに「サイエンス、バランス、リスペクト」を掲げた。「スポーツ医科学を活用しながらバランス良く。練習、練習、練習はうまくならない。練習し、栄養取って、睡眠、休養」と強調した。フロント業務や現場での指導も含めて2軍公式戦に参加するチームの強化に努めていく。

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