低迷期を支えた猛虎のノーヒッターは同じ変則・青柳の復活を信じる

[ 2023年7月8日 08:00 ]

猛虎の血―タテジマ戦士のその後―川尻哲郎氏

ノーヒットノーランのスコアボードを背にポーズをとる川尻哲郎さん(撮影・田中 和也)
Photo By スポニチ

 言うべきことは言ってきた。有言実行で阪神のマウンドを守った川尻哲郎氏(54)は現在、東京の阪神ファンとともに、チームの戦いに熱い視線を送っている。打たせて取る投球でノーヒットノーランを記録した男は、同じ変則右腕・青柳の復活を期待。経営する店に集うファンとともに、「アレ」の祝杯を楽しみにしていた。

 サラリーマンの街、新橋の飲食ビルの5階にある川尻氏の店「TIGER STADIUM」は、東京の阪神ファンでにぎわっている。試合のある日は営業日。土曜、日曜のデーゲームも試合時間に合わせて、オープンし、昼飲みしながら応援するファンも多い。「チームが好調だし、新規のお客さんも増えている。ありがたいことです」と目を細めた。

 今季は村上の快投、森下のサヨナラ打など劇的な勝利が目につくが、「ここまで一番盛り上がったのは開幕戦だと思う」と3月31日DeNAとの開幕戦での店内の熱気を思い出していた。前年はリードを守り切れずに、そこから9連敗。1年間悔しい思いを抱いていたファンも、全力でリードを死守したチームの進歩を認め「今年は違うぞ」と祝杯を交わした夜だった。

 川尻氏といえば、ノーヒットノーラン。98年5月26日、倉敷マスカットスタジアムでの中日戦での快挙が代名詞になっている。店内にも2―0勝利を示すスコアボードと両軍のスタメンが再現され、記念撮影をするファンの姿も多い。9回110球で無安打無失点。三振は初回に先頭打者の李鍾範(イ・ジョンボム)から奪った空振り三振1つだけ。内野ゴロ16という打たせて取る投球に徹したことが、快挙につながった。

 実は、二日酔いで臨んだマウンドだった。「岡山遠征だし、ちょっと深酒をしたのは事実です。まあまあ飲んだという記憶がある。飲む飲まないにかかわらず、試合で結果を出せばいいと常に思っていたから」。試合前の練習では飲んだ分、汗をしっかり流した。アップ、キャッチボール、軽めのランニングで体を動かし、マッサージを受けると「体が楽になって、体調いいぞ、という感じで試合に入れた。早めに打たせてアウトを取ってやれ、と投げていった。9回はさすがに意識した」と当時を振り返った。

 低迷期の阪神のマウンドを支えた右腕だった。ドラフト4位で日産自動車から入団した95年は中村勝広監督がシーズン途中で休養した年。以後、阪神では藤田平、吉田義男、野村克也、星野仙一の5監督の下でプレーしたが、阪神在籍9年間で最下位が6回。その間に3度の2桁勝利を記録。打線の援護があれば、もっと勝てた投手だった。

 細かいことにこだわらず、はっきりとものを言う性格。武勇伝も多い。「開幕投手をしたって給料が上がるわけじゃない」と打診を拒否したり、星野監督時代の03年優勝時にも胴上げ試合の参加を断った。「確かにそんなこともあった。当時は頑張っても、球団がなかなか評価してくれなかったから、開幕なんて…という話になった。優勝したときも全く貢献できなかった自分が行くべきじゃないと思っていた。そういうことも、自分の足跡のひとつ。阪神時代はいい思い出の方が多い」と後悔はない。

 ◇川尻 哲郎(かわじり・てつろう)1969年(昭44)1月5日生まれ、東京都中野区出身の54歳。日大二(東京)では甲子園出場はならず、亜大でも小池秀郎(元近鉄)、高津臣吾(現ヤクルト監督)が同期で登板機会に恵まれなかった。社会人の日産自動車から94年ドラフト4位で阪神入団。98年にプロ野球史上66人目(当時)のノーヒットノーランを達成するなど阪神では3度の2桁勝利をマーク。近鉄、楽天を経て05年に現役引退。通算227試合登板60勝72敗3セーブ、防御率3・65。阪神時代の背番号は41と19。

《球威「僕より数段いい」》
 自身と同じ変則の右腕投手として、青柳晃洋に期待している。開幕から状態が上がらず2軍降格も経験するなどの苦闘は、自らも通ってきた道だ。「球威という点では僕より数段いい。青柳は勝てる投手。今年苦しんでいるのは左打者対策。インコースを意識させた上で、どう打ち取るか。そこができれば、また勝てるはず」とエールを送った。

 店では試合中継を流しながらの川尻氏のワンポイント解説も人気。「長く優勝から遠ざかっているし、皆さんが期待している。岡田監督は自分も阪神ファンだったからこそ、ファンの心をつかむことができている」。選手側、応援する側の両方を知るからこその視点で語った。今夜も新橋には六甲おろしが響くはずだ。 (鈴木 光)

続きを表示

この記事のフォト

「始球式」特集記事

「落合博満」特集記事

2023年7月8日のニュース