【内田雅也の追球】甲子園で巨人戦開幕8連敗…歴史的屈辱と知れ

[ 2016年9月8日 09:40 ]

<神・巨>敗戦に足早にベンチ裏へ下がる金本監督(右端)

セ・リーグ 阪神2―3巨人

(9月7日 甲子園)
 これは大事件だと話しかけ、敗戦後の通路を阪神チーフ兼守備走塁コーチ・平田勝男と歩いた。

 「大事件?」と平田は顔を上げた。

 この夜の1敗はただの1敗ではない。何しろ、甲子園での巨人戦に開幕から1分けをはさんで8連敗。80年を超える歴史で最悪の記録だ。伝統に泥を塗る惨状なのだ。

 「そうだな……」

 先人の汗が染み込み、誰もが愛する甲子園での「伝統の一戦」に勝てない。猛虎たちはどんな時も巨人にだけは勝とう、と闘志を燃やしてきた。「打倒巨人」は猛虎の使命、本懐である。

 「う~ん……」

 もちろん、選手たちは懸命に戦っていることだろう。ただし、若手が多い今のメンバーには巨人戦という、わけても甲子園での巨人戦という特別感は薄いのではないか。

 「まあ……」

 プロ野球は巨人と阪神の歴史である、と書くのは何も誇張した表現ではない。初年度1936年から年度優勝決定戦(俗に言う洲崎の決戦)を戦い、戦前の優勝は両チームで独占した。東の巨人、西の阪神が競い合い、発展してきた。

 阪神には、そんな歴史を背負って戦う使命がある。いや遺伝子として組み込まれているはずだ。何も重荷を背負え、と言うのではない。事の重大さを伝えたいのだ。

 「……」

 平田は結局、何も答えなかった。平田も82年の入団以来、阪神一筋できた。「打倒巨人」が染みついている。猛虎の先輩として、その精神性を伝えていく役回りだ。それが伝統となる。

 従来のワーストは87年と91年の7連敗だった。87年、8連敗を免れたのは7月31日だった。岡田彰布が江川卓から先制決勝ソロと角盈男からダメ押し2ランを放つなど、9―1の圧勝だった。

 当時の記事によると、岡田は「今日は大事な一戦だと心に決めて球場入りした」と話している。球宴明け初戦、舞台は甲子園、相手は巨人で、しかも連敗中という特別な感情が読み取れる。

 あの87年は「天国」の85年日本一から2年後、球団史上最低勝率(・331)という「地獄」だった。監督・吉田義男は球団史を汚す惨状に何度も、本当に何度も「屈辱ですわ」と繰り返した。

 そう、屈辱なのだ。屈辱をかみしめ、風雪に耐えた歴史があって今がある。これは覚えておきたい。その心は必ず力になる。 =敬称略=
 (スポニチ本紙編集委員)

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