上水研一朗氏 羽賀 守り抜いた“ミリ単位”の間合い…「我慢」の引き出し増やして初の頂点

[ 2020年12月26日 19:50 ]

全日本柔道選手権大会決勝で太田(左)に内股で一本勝ちした羽賀(代表撮影)
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 羽賀が戦った3回戦以降の4試合のうち、対戦した3人は東海大の後輩で、羽賀自身が道場で何度も組み合い、鍛えた選手たち。挑みかかってくる後輩たちに意地を見せた29歳は立派だった。そして「恐ろしい男」と最も感服させられたのは、3回戦の影浦戦だ。

 勝った方が優勝に近づくと考えていたが、羽賀は影浦が得意とする担ぎ技に「絶対に入れない間合い」を熟知しており、最後までミリ単位で間合いを守った。もちろん、その間合いでは自身の技の威力も減じるのだが、「柔道をしよう」とした後輩に対し「勝負に徹した」我慢比べの姿勢が、勝利に結びついた。決勝の太田戦も同様だ。組み手に妥協した太田の一瞬の隙を見逃さなかったのは、序盤の相手ペースを我慢しきったからだといえる。

 切れ味鋭い技を持つ選手は、精神的にもろさを抱えているケースが多い。試合中の相手を投げられない場合に、気持ちが切れるという傾向がある。羽賀も同様だったが、年齢とともに「我慢」という引き出しが増えた。技の切れ味やセンスに加え、相手の分析力と作戦遂行能力に最大の特長があったが、これが存分に生きるようになった。円熟味を増した、と言い換えてもいいだろう。

 一方の太田は素直で優しい性格が災いし、結果に結びつかないケースが多かったが、昨年3位、今年2位と国内最高峰の舞台で段階を踏んだことで、自信をつかむのではないだろうか。良いときと悪いときを繰り返しながらジリジリ成長してきた選手であり、ここは一気に伸びるチャンスだと思う。組み手の圧力に長けており、内股や大外刈り、大内刈りに加えて担ぎ技も出せる器用さもある。24年パリ五輪の代表争いにはもちろん加わってくるだろう。

 さて、コロナ下で厳しい状況が続いた柔道界だが、欠場選手こそ出たものの、全日本選手権が年内に開催された意義は大きい。体重別の大会や、学生の団体戦などに比べて出場選手が絞れているのも開催できた理由の1つだろうが、とにかく大会を運営してみないと次のステップには進めない。新年に向けて、新たな課題と希望を示してくれたと思う。(東海大体育学部武道学科教授、男子柔道部監督)

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