桃田 復帰戦白星で飾る 交通事故から346日、東京金へ「ここで折れるわけにいかない」

[ 2020年12月24日 05:30 ]

バドミントン 全日本総合選手権第2日 男子シングルス1回戦   桃田(NTT東日本)2―0森口(埼玉栄高) ( 2020年12月23日    東京・町田市立総合体育館 )

11カ月ぶりの公式戦となる全日本総合バドミントン選手権、男子シングルス1回戦でプレーする桃田賢斗
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 男子シングルス1回戦では、世界ランキング1位の桃田賢斗(26=NTT東日本)が森口航士朗(埼玉栄高)に2―0で快勝し、順当に2回戦に進出した。今年1月に遠征先のマレーシアで起きた交通事故での負傷から346日ぶりの公式戦復帰を果たし、来夏の東京五輪へ再スタートを切った。混合ダブルスに専念した女子ダブルス16年リオデジャネイロ五輪金メダルの松友美佐紀(28=日本 ユニシス)も後輩の金子祐樹(26=同)と組み、初戦を突破した。

 無観客の会場で、桃田は少しだけ感慨に浸っていた。「この11カ月、本当にいろんな思いをした」。勝負のコートに立つと、自然とスイッチが入った。「おっ、帰ってきたな」。大きな歓声も派手な演出もないことで逆に冷静になっていた。

 久々の実戦で感覚のズレがあったが、高校生に負けるはずはなかった。第1ゲームは要所でのスマッシュが効き、相手を寄せつけず。第2セットは得意のヘアピンショットで相手の足を止め、10―2とリードを広げてからは相手の出方をうかがうラリー戦で感覚を取り戻す余裕もあった。「試合前の居ても立ってもいられないソワソワ感を含めて“あ、久しぶりだな”と感じることができた」と実感を込めた。

 交通事故で右目の眼窩(がんか)底骨折の手術を経て、2月末から練習を再開。患部に負担がかかるため力む動作は禁じられ、1歩だけ踏み出す素振りや右目を動かすだけの地道な練習の繰り返しだった。コートで自由に動くまで3カ月を要した。

 「ポジティブに捉えてやるだけ」。周囲には言い、肩口に残る傷痕を心配されても「かっこいいでしょ?」と弱みは見せなかった。だが、刻一刻と迫っていた東京五輪へ焦りは募る。「金メダルを獲るのに、こんな練習でいいんですか?」。寡黙で純朴な男が周囲に本音をぶつける時もあった。動きたくても動けない。想像を絶する忍耐力で、ここまで来た。

 新型コロナウイルスの影響で3月にワールドツアー中断や東京五輪の延期が決定。復帰戦自体も遅れ、346日の時間が過ぎていた。雌伏の時を過ごした桃田には、変わらない思いがある。「一緒に練習してくれる人や(専属トレーナーの)森本さんがいて、家族がいる。自分のためというより支えがあったから、ここで折れるわけにはいかない気持ちが自分を強くさせてくれた」。目指すは、恩返しの金メダル。数奇な人生を歩む男の新章が、幕を開けた。 

 【桃田事故からの経過】
 ▽1月12日 マレーシア・マスターズ決勝でアクセルセン(デンマーク)に勝ち、優勝。下肢の炎症で帰国する運びとなった。
 ▽同13日 クアラルンプール国際空港に移動中のワゴン車が高速道路で大型トラックと衝突。2列目に乗っていた桃田は顎部(がくぶ)、眉間部、唇の裂傷と全身打撲と診断。大量出血した眉間は現地の病院で縫合手術。
 ▽同15日 成田空港に緊急帰国。都内の病院に検査入院。
 ▽同17日 退院。精密検査の結果「身体面に異常なし」の診断。休養に入る。
 ▽2月3日 味の素ナショナルトレーニングセンターの日本代表合宿に合流。
 ▽同4日 別メニューで練習した際に「シャトルが二重に見える」と違和感を訴える。5日に合宿を離脱。
 ▽同7日 専門病院で目に特化した検査を受け、右目の眼窩(がんか)底骨折が判明。
 ▽同8日 手術し、全治3カ月と診断。
 ▽6月26日 オンライン取材で右目について「98%くらい前と同じように見える」と状態を明かす。
 ▽7月13日 18日まで福島県で個人合宿。
 ▽9月1日 10日間の日本代表合宿に合流。7カ月ぶりの代表活動復帰。
 ▽12月22日 復帰戦前日にツイッターを更新。「皆さんに感謝の気持ちを持ち頑張ります」などとつづった。

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