錦織の出番はどう決まる? TDの仕事は“正解のないパズル”

[ 2015年10月6日 09:50 ]

1回戦のチョリッチ戦終了後、ガッツポーズする錦織

 楽天ジャパン・オープン開幕前日の午後2時頃、大会初日の「オーダー・オブ・プレー(試合順)」が発表された。

 その途端に残っていた2500枚のチケットのうち650枚が即座に売れたという。理由は連覇を狙う錦織圭(25=日清食品)の1回戦が、センターコートの第3試合で行われることが決まったからだった。

 他の競技と比べてテニスの特異なところは、前日の午後まで(場合によっては夜まで)翌日のカードが分からないところにある。

 今年の楽天ジャパン・オープンでいえば、1回戦は月、火曜日に分けて行われる。錦織の試合がどちらに入るか、前日までファンは分からないままチケットを買うのである。それが嫌なら、オーダーが出てから買えばいいが、売り切れていたら後の祭りだ。

 試合開始時刻もあってないようなものだ。第2試合以降は前の試合が終わり次第、随時行われるため、「○時以降には始まらない」という目安は設けられているが、前の試合が長引いて遅れることも日常茶飯事だ。

 そうしたオーダーに最終的なGOサインを出すのはトーナメントディレクター(TD)の仕事である。今大会のTDを務める川廷尚弘氏はきっぱりと言う。

 「みんなが円満になることは絶対にない」

 ファンの願いだけではない。選手からもこの日にプレーしたい、このコートがいいとリクエストがある。「自分はスターだと自負している選手もいますから」。わざわざ日本まで来てセンターコートに入れないと、へそを曲げて翌年には出場を渋る選手もいるという。

 しかし、その選手の人気や集客力だけでも決められないのが難しいところだ。相手が前週の大会で最後まで勝ち残っていれば、来日が遅れて必然的に試合は後回しになる。ダブルスにエントリーしていたりすれば、無茶なダブルヘッダーにならないようにとの調整も必要だ。

 テレビ放送も重要で、国内向けだけでなく、海外向けのバランスも考える。4大大会で錦織の試合が第1試合に組まれることが多いのは、時差があっても日本の視聴者が見やすい時間になるようにとの配慮からだ。

 「ファンが見たいカードが同時に別のコートで行われないように」という来場者への気遣い、祝日や天候に加え、番狂わせが起きれば人気選手が翌日にはいなくなってしまう。不確定要素も絡み合って、まさに正解のない「パズル」である。

 そんな時に最も重視するのは「不公平感なく、いい試合ができるように」との考えだという。「来日して翌日に試合もしんどいし、待ちすぎるのもしんどい」。ツアーのスーパーバイザーが選手、ドクター、トレーナーまで含めた意見を受け取り、全選手のトラベルスケジュールやコンディションを踏まえた上で素案を作る。それを基にTDが話し合って決定を下すのである。

 正解はなくとも、より良い選択を求めて。果たして2日目以降はどんなオーダーが組まれていくのか。パズルに頭を悩ませるスタッフの顔が思い浮かぶようである。(雨宮 圭吾)

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2015年10月6日のニュース