「みちのく潮風トレイル」“ゴール”は浄土ケ浜 極楽はこの世にもある

[ 2023年7月31日 12:00 ]

浄土ケ浜の絶景スポットでは海水浴を楽しむ人も
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 【笠原然朗の舌先三寸】60歳の定年を前にして取得した長期休暇を利用して、夏の三陸を旅する。

 青森県八戸市と福島県相馬市を結ぶ約1000キロの道「みちのく潮風トレイル」を歩く。全行程を通しで走破することを「スルーハイク」という。一方、その一部を選んで歩くのは「セクションハイク」。私の徒歩旅は後者で、5日間に約50キロを尺取り虫のように進んだ。上級者なら2日もあれば歩けるのだろうが、そこは脚力のない者の悲しさ。ゆっくり進もう。

 この日、泊まったのは岩手県宮古市の休暇村陸中宮古。「みちのく潮風トレイル応援プラン」(1万9400円)で、朝・夕食はブフェ。プランでは行動食となるようかんが2本、ミネラルウォーター水1本、トレイルの缶バッジがもらえる。

 朝食で「瓶丼」を食べた。ご当地食で、ガラス瓶の中にウニ、イクラなどの魚介、メカブなどの海藻が入っていてきれいだ。ご飯にかけてかき込んだ。

 出発前にフロントで、トレイルの入り口がどこかを聞いた。

 トレイルのパンフレットを見ながらスタッフは「国道を左にどんどん行って潮吹き穴入り口に看板がありますからそこから入ってください」と言う。

 国道へ向けて歩き始めてみたが説明に違和感が残る。「公式マップでは国道をたどるルートではなかったはず」と確認すると案の定、「姉ケ崎展望所」方面へ向かう自然歩道がトレイルの正式ルートだった。

 あの説明はいったい何だったのか?

 樹林帯の中、アップダウンを繰り返す。

 体力を奪うのは階段だ。高さがあって、駅などの階段を一段飛ばしで昇降するイメージ。登山では「体力を温存するために歩幅を少なくして“ちょこちょこ”と歩くべし」がセオリーだが、有無を言わせぬ階段地獄。これが「潮風トレイル」の名物なのだろう。

 東北は涼しいとはいえ30度を超える暑さだ。ゾンビのような足取りで、湿った暗い道を抜け蛸ノ浜の墓地へと出た。ここまで来ると浄土ケ浜まであとわずか。

 道ばたに横たわるように置かれていたのは1935年(昭10)に建立された「海嘯(かいしょう)供養塔」。1933年の地震で三陸沿岸を襲った大津波の犠牲者を供養したもの。東日本大震災による津波で倒されたのだという。

 「みちのく潮風トレイル」セクションハイクのゴールは、浄土ケ浜とした。

 東北地方屈指の観光名所である。白い流紋岩の奇岩が立ち並ぶ景色は極楽浄土のようだ、と名付けられたのだとか。海水浴客もいて、かき氷などの移動販売車は質の悪いスピーカーでハワイアンを流している。無粋なBGMに憤りながら、思った。なんて平和なのだろう、と。

 ウクライナの戦禍は猖獗(しょうけつ)を極める。シリア、ミャンマー、スーダン…世界中で紛争の炎は消えることはない。それに比べてここはどうだ。平和だ。極楽はこの世にもある、と思った。

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