【大野豊氏 シリーズ大分析】「甲斐の肩」におびえた広島 機動力空回り

[ 2018年11月4日 09:00 ]

SMBC日本シリーズ第6戦   ソフトバンク2―0広島 ( 2018年11月3日    マツダ )

2回2死一、三塁、打者・石原の時に一走・安部は二盗失敗(左は西田)(撮影・岡田 丈靖)
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 広島ベンチは「甲斐の肩」におびえ、そして自慢の機動力は空回りした。本紙評論家の大野豊氏(63)は、顕著な例として、2回2死一、三塁の先制機で一塁走者の安部が単独スチールを仕掛け、アウトになった場面を挙げた。今シリーズは第2戦以外は全て3点差以内の接戦だったが、ソフトバンクが放った7本塁打が全て効果的な場面で出たところに強さが表れていたと分析した。

 広島の2回の盗塁失敗は、意図が見えづらいものだった。2死一、三塁。打者は石原で2ストライクに追い込まれていた。動くかもしれないと思って見ていたが、一塁走者の安部が単独スチールで、簡単にアウトになり、先制機を逃した。

 動くなら、として私が考えたのは重盗だ。一塁走者が一、二塁間で挟まれているうちに三塁走者が本盗を決める。どうしても1点が欲しい場面で見られる作戦だ。策を取った結果、アウトで得点に結びつかないなら仕方ないし、チームとしても納得がいく。それだけに、安部の単独盗塁は不可解だった。仮にセーフになってもいかがなものだろう。打撃があまり良くない石原で、2ストライクと追い込まれていた。次打者は9番のジョンソン。1点が取れるとは言い難い局面だ。相手にプレッシャーを与える盗塁とはなりにくいものだった。

 やはり「甲斐の肩」が効いている証拠だろう。広島の足が、ここまで機能しなかったことに驚く。初回、田中の二盗失敗も、これまでよりベース付近でスライディングをしていたように見えた。チームとしてさまざまな甲斐対策を取っていたが、なかなか結果が出ず、ベンチが動揺していた部分もあるかもしれない。

 甲斐がMVPに選ばれたことは私からすれば当然と思う。6試合を振り返っても、本当に広島の流れを止める盗塁阻止が多かった。この日、広島が点を取れるとしたら、初回と2回だけだった。急場をしのいだことで、3回からバンデンハークのエンジンが掛かった。捕手は地味な仕事が多いが、相手の強さを封じるという最高の仕事をした。

 ◆バンデン3回以降“覚醒”

 3回以降のバンデンハークは別人のようだった。この日は特に直球の切れが良かった。ファウルした球はほとんどが逆方向で、引っ張ることができなかった。だからこそカーブが効いた。速球に力があるだけに、甲斐も遅い球、つまりカーブの使い方を考えただろうが、これも絶妙だった。

 6回の丸は完全に翻ろうされていた。2〜4球目にカーブを見せられ、配球を考えさせられた部分もあったはず。続く5球目の直球、6球目のカーブ、ともにタイミングが合わず空振り三振。4回の打席で直球に空振り三振させられているだけに、直球への意識をソフトバンクバッテリーに逆手に取られた格好だ。4回の鈴木に対しても1〜3球目はカーブ、4〜6球目に直球、そして最後はカーブで空振り三振。いかに、この2つの球種が良かったかを物語っていた。

 バンデンハークのカーブは落差があり、線で捉えるのが非常に難しい。緒方監督も「あのカーブが本当に邪魔だ」と言っていたが、カーブを意識させられて直球に合わなくなる。反対に直球を意識すると、カーブにタイミングが合わない。この日は最速158キロで、最も遅いカーブは111キロ。47キロ差の緩急が好投の要因だった。

 広島がバンデンハークから放った4安打は全て直球かカーブ以外。半速球といわれるようなスライダーかチェンジアップだった。第2戦では5回で8安打していただけに、良いイメージがあっただろう。3回以降、投球がかみ合いだした右腕への対策が遅れた要因の一つかもしれない。

 ◆小技も本塁打も効果的だったソフトB

 点差以上にソフトバンクの強さを感じた試合だった。2点の取り方が特にそう。4回、先頭・柳田が四球を奪い、広島のお株を奪うような初球のエンドラン。そして内川が犠打を決め、西田がスクイズ。小技を集めた結果の先制点だ。初回、広島は菊池の犠打失敗があっただけに、余計にそう感じた。

 2点目のグラシアルの一発も効いた。先制点を取り、中押し点が欲しい局面の5回、しかも2死無走者だ。広島バッテリーも警戒していただろうが、低めのカットボールを見事に運ばれた。相手ベンチに与えるダメージの大きい一発だった。

 今回のシリーズを振り返ると、ソフトバンクの本塁打には無駄がない。なくても勝てるだろう、というようなダメ押しの一発ではなく、どれも効果的で、試合を動かすものばかりだった。本当に強いチームの証とも言える。最終戦で広島の良いところが見られなかったのが残念でならないが、ソフトバンクが今年の「日本一」といえる試合内容だった。

 ≪150キロ以上に弱かったタナキクマル≫ バンデンハークはこの試合で150キロ以上を計測(最速は158キロ)した直球が41球。このうち4〜6回が29球で、中盤に一気にギアを上げた。今季の広島打線の150キロ以上の直球打率を見ると、4番の鈴木が・389をマークしているが、田中、菊池、丸の1〜3番は分が悪い。丸は直球全体では・346だが、150キロ以上となると、打率・226だった。

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