35年目で勇退 横浜商大・佐々木監督は気遣いの人 「おーい」の理由は…

[ 2018年6月28日 10:30 ]

記者を集め勇退を発表する横浜商大・佐々木監督
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 6月19日。神奈川県の野球関係者と報道陣が集まる食事会「無名会」の後、神奈川大学リーグ・横浜商大の佐々木正雄監督(69)が今秋限りでの勇退を発表した。84年から指揮を執り35年目。昨年12月に右股関節の手術を受け1カ月入院し「ノックが打てなかった」ことなどを理由に挙げた。今春は0勝10敗の最下位に終わっていた。

 今年からアマ野球担当記者になった僕は付き合いは短いが、かわいがってもらった。2月に初めてグラウンドにあいさつに行ったとき、監督室で「スーパーカップ」のバニラアイスが出てきて驚いた。「溶けちゃうから早く食べて」と佐々木監督。「監督アイスお好きなんですか?」と聞くと「みなさんが召し上がっているのを見るのが好きなんだよ」とニッコリ笑っていた。喜怒哀楽の表情が豊かで、名人の落語家のように見えた。

 その日は関係者との食事会、スナックでの2次会にも連れて行ってもらった。2次会の席で僕が回文をつくるのが得意だと言うと、監督に「ちょっと書いてくれ」と紙を渡されたので「まさおさま」「おさまるまさお」「おさまらないならまさお」と即興で書いたら、喜んでくれた。

 今春リーグ戦は成績が振るわなかっただけに連絡するのもためらったが、今月の初めにリーグ戦終了のあいさつに行くことにした。電話をかけると「昼飯食わずに来いよ」と言ってくれた。監督室に入ると「おーい」とマネジャーを呼び「食事を出して」。冷やし中華をごちそうになった。監督は僕が食べるのをうれしそうに見ていた。野球部のエースで番長だった高校時代の武勇伝、亡くなった星野仙一さんとの思い出など、いろいろな話を聞いた。冷やし中華を食べ終わると「おーい、アイス持って来て」。さらに「これ見てくれ」と財布から出したカレンダーの切れ端を見ると、僕がスナックで書いた回文が書かれていた。何カ月も保管していると思わなかった。

 グラウンドでは練習が行われていた。気がつくと監督室で3時間以上話し込んでいた。「練習見なくて大丈夫ですか?」と言うと「いいんだよ。選手の顔を見るのがつらいから」。そのとき既に佐々木監督は辞めることを決意していたのだと思う。主務やマネジャーを「おーい」と呼ぶ理由について「名前を呼ぶと情が移っちゃうんだよな」と声を震わせていた。アイスは溶けていた。

 アイスを食べ終わると「おーい、コーラ出して」。「いや監督、もう大丈夫ですから。アイスとコーラってアメリカの大学生じゃないんで」と、よく分からないツッコミをして「失礼します」と球場を後にした。いただいたお土産の紙袋を持って。常に周囲を気遣い、優しく、厳しい佐々木監督。退任後は総監督に就任する。今秋は監督ラストシーズン。「まさおさまスマイル」で胴上げされる姿を想像しながら帰った。(記者コラム・渡辺 剛太)

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2018年6月28日のニュース