帝京大の強さ際立つ大学ラグビー 伝統校の物心両面での強化支援に期待
帝京大による記録に彩られた優勝で幕を閉じた大学ラグビーシーズン。「黄金期再来」と見出しを打ちたくなるほどの強さ、そして強化の継続性を感じさせる勝ちっぷりが、73―20というスコアに表れた。09~17年度に9連覇を達成した中でも、“最強”との呼び声高い14年度と比肩するとの見方があるのもうなずける数字を残した。
昨年度限りで退任した岩出雅之前監督は、「これから20年を目指した長期政権で、学生たちをしっかり成長させてほしい」とバトンをつないだ相馬朋和監督に期待を寄せた。岩出氏自身も96~21年度の25シーズンという長期政権で、一介の対抗戦加盟校を強豪に育て上げている。じっくり、腰を据えて指導することのメリットは、9連覇を含む10度の大学日本一という金字塔が証明している。
3日後、日本ラグビーのルーツ校である慶大は、4年務めた栗原徹監督の退任と、06年度の主将だった青貫浩之氏の新監督就任を発表した。任期は2期4年が基本路線。横浜市内で行われた会見で、3代前の監督でもあった和田康二ゼネラルマネジャー(GM)は、実直にこう語った。
「(任期は)柔軟に考えていいという議論はあり、対応できる可能性はある。ただやはり、実際に監督をされる方の人生もある。長く続けていただける待遇、体制ができるのがいい。正直に言うと、長く続ける金銭面や環境面で十分ではない」
和田氏がこの会見の中で明言したように、慶大を含むいわゆる伝統校では、実質的にOB会に監督の決定権がある。青貫新監督は3月末で卒業後から務めていた味の素を退社するそうだが、任期を終えれば、その先に職の保障はない。その覚悟は気高く美しい。だがチームの強化に結びつくかどうかとは、全くの別問題であることも認識しておかなければならない。
決勝で帝京大と対戦した早大の大田尾竜彦監督も、試合後会見で示唆に富んだ言葉を残した。53点ものスコア差を埋めるために、必要なことを問われた時だ。「(就任)2年間はベースをアタックに置いた。これをベースにして、もの凄く練習時間をアタックかディフェンスに振る。本当に極端に振らないといけない。そういう何かを仕掛けないといけないかなと思う」。万人に与えられる時間は等しくても、ラグビーに打ち込める時間は各々の大学の事情に左右される。早大においては限りある時間を矛か盾かの一方に集中投資しなければ、王者の牙城を切り崩せないとの考えが表れた。
学生スポーツ界にもルールは存在するが、選手の集め方、強化への資金や時間のかけ方は、実際のところさまざまな制限を設けて実力格差を埋める仕組みのあるプロスポーツよりも、自由度が高いと言える。99年度に慶大にとって3度目の大学日本一を10番として経験している和田氏も、「当時と今では大学ラグビーだけではなく、ラグビー界全体で全然違う世界だと思う。今の方が強化する大学は予算をしっかり張り、人を配置して、環境を整備している。大学ラグビーと箱根駅伝は、異次元の世界になっている」と言葉に実感を込めた。
帝京大の資金力の詳細は不明ながら、こんな話を最近になって聞いた。14年度の日本選手権1回戦、SH流大、SO松田力也らを擁した帝京大に敗れたNEC(現リーグワン東葛)の首脳が、「だって強化費が向こうの方が多いんだから」と吐き捨てたという。ここで言う強化費とは、人件費を除いた投資額だろう。だが億単位の資金を一つの強化指定部に投下できる大学も、日本ではおそらく指折り数えられるほどであり、国内最高峰リーグの一チームを凌ぐほどであったということだ。
今後の大学ラグビー界、引いては大学スポーツ界はどうあるべきか。私見を述べさせてもらえれば、帝京大が強化の手を緩める必要は全くない。大学ラグビー界が何らかの規制を設ける必要もないし、設けるべきではないと考える。この十数年間、伝統校支配の世界に一石を投じ、聖域をも壊し、W杯で躍進する日本代表に多くの人材を送り込んだ功績は、あまりにも大きい。その一方で日本社会がそうであるように、格差がこのまま進めば、いつかは限界と崩壊に至ることは自明でもある。
伝統校の歴史と文化も、また尊いもの。4年間で一度も公式戦の舞台を踏まない一介の選手が社会に出た後、ラグビー界なんぞ点に映るほど大きく羽ばたくほどの人材を輩出することも、大学ラグビー界の意義であると思う。同時に、4年間に青春を燃やす若人は、未来のことなど一瞥もくれず、ただただ大学日本一を目指していることも、また事実だと思う。そんな熱い思いに、伝統校がどうにか物心両面で応えられないだろうか。
ルーツ校はきょう14日、123代目の始動を迎える。(アネックスコラム・阿部 令)
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