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臨床現場で応用進む「3Dプリンター、バーチャル画像を駆使した手術」

[ 2023年10月9日 05:00 ]

 がん治療の最前線、米国で働く日本人医師が現場から最新の情報を届ける「USA発 日本人スーパードクター これが最新がん治療」。テキサス州ヒューストンにある米がん研究最大の拠点「MDアンダーソンがんセンター」で治療に取り組む小西毅医師による第11回は、3Dプリンターやバーチャル画像を駆使した手術についてです。

 ◆臓器とがんの立体モデル作製 3Dプリンターを用いた手術シミュレーション◆

 近年進歩が著しいバーチャルリアリティーの技術は、映画やゲームの世界を超え、今やさまざまな分野で応用されています。手術もその一つです。バーチャルリアリティーや3Dプリンターの技術を駆使することで、深い場所にあるがんの位置を正確に把握し、大事な血管や神経を傷つけることなく、がんを安全かつ確実に切除することができます。本日は、臨床現場で応用が進むバーチャルリアリティーを駆使した手術ナビゲーションについて解説します。

 私が写真で手に持っているのは、実際の患者さんのMRI画像から作製した骨盤のがんの3D立体モデルです。この立体モデルを用いて手術を計画し、深い骨盤の中にある難しいがんの切除手術に成功しました。がんの手術では、がんを露出させずに周囲の正常な組織に包まれた状態で切除します。がんを露出させると、こぼれ落ちたがん細胞から再発してしまうからです。

 人の体には傷つけると大出血や深刻な後遺症につながる大きな血管や神経がたくさんあります。そのような血管や神経に近い場所にがんがある場合、がんから距離を取り過ぎて血管や神経を傷つけてしまうか、逆にがんに近寄りすぎてがんを露出させてしまいやすいため、手術が困難となります。

 私が在籍するMDアンダーソンがんセンターには、米国全土からこのような手術が困難ながん患者が集まります。これまでは、CTやMRIなどの画像検査を基に、頭の中で解剖知識と経験を駆使し、がんの位置を把握して、どのように手術するか計画を立てていました。しかし、2Dの放射線画像を3Dの立体解剖に頭の中で組み立てていくのは、経験豊富な外科医にとっても簡単ではありません。

 そこで、現在はCTやMRIの画像を基に、3Dプリンターを用いて臓器とがんの立体モデルを作製します。立体モデルをいろいろな角度から見ていじりながら、外科医同士で相談し、どこで血管や神経を切れば出血や後遺症なく、安全確実にがんを取ることができるか、綿密に手術の計画を立てることができます。このような3Dプリンターを用いた手術シミュレーションは、とくに通常よりも深い場所にできる再発がんや肉腫、さらに大きな血管や神経に近い場所にあるがんで有効です。

 ◆見えないはずの腫瘍リアルタイムで可視化 バーチャルリアリティーを用いた手術のナビゲーション◆

 体の中の臓器や構造物は、脂肪や結合組織で覆われています。このため実際の手術では血管や神経が透けて見えるわけではありません。当然、がんもどこにあるか見えません。外科医は経験と知識をもとに臓器や構造物、がんの位置を把握して手術を進めていきます。しかし、人間の解剖やがんの位置は一人一人異なるため、手術中に臓器や大事な血管、神経、さらにがんの位置を可視化できれば、手術はずっと安全になります。

 これまで日本をはじめ世界中で、CTやMRIの画像から構築した3D画像を手術中の身体に投影する試みが行われてきましたが、あまり役に立つレベルにはありませんでした。実際の人の体は呼吸や体位、手術操作などで伸び縮みします。この伸び縮みにより、手術前に撮影した画像と実際の手術での位置に大きなずれが生じてしまうからです。

 MDアンダーソンに来て驚いたのは、事前にCTやMRIから作製した3D画像を、呼吸や体位に合わせて伸び縮みさせる自動補正プログラムがすでに完成し、臨床応用されていたのです。例えば、手術で肝臓を引っ張ると、形状が変化します。すると、3D画像の肝臓も同様に引っ張られた形状に変化し、肝臓内の血管やがんの位置も引っ張られた形状に合わせて、位置がリアルタイムに自動補正されるのです。

 肝臓内に埋もれて見えないはずの腫瘍や血管の正確な位置を、画像でリアルタイムに可視化し、正確かつ安全に手術をすることができます。カーナビのように、画像でナビゲーションしながら安心して手術を進めることができるのです。

 ◆実用化へ進む研究 “手作り”からプログラムへAIの導入で急速に進化◆

 現在臨床で用いられている立体モデルや3D画像は、原則として手作りです。エキスパートの放射線画像医が、一人一人の患者さんのCTやMRIを基に、手作業で丁寧に構築していきます。しかし、日本や米国では現在、このような画像解析とモデルの構築をAIで行うプログラムが研究されています。特にロボット手術や腹腔(ふくくう)鏡手術では、手術画像もカメラからモニターに映し出される画像情報です。手術前のCTやMRIだけでなく手術中の画像をAIで認識、解析することで、自動的に血管、神経、がんの位置を明らかにし、手術を支援することができます。現在まだ実用には遠いですが、AIの進歩の速度を考えると、ごく近い将来に臨床応用されるでしょう。

 ◇小西 毅(こにし・つよし)1997年、東大医学部卒。東大腫瘍外科、がん研有明病院大腸外科を経て、2020年から米ヒューストンのMDアンダーソンがんセンターに勤務し、大腸がん手術の世界的第一人者として活躍。大腸がんの腹腔鏡・ロボット手術が専門で、特に高難度な直腸がん手術、骨盤郭清手術で世界的評価が高い。19、22年に米国大腸外科学会Barton Hoexter MD Award受賞。ほか学会受賞歴多数。

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