メジャー球団のスカウトが“ドラフトに関係ない”中学生を指導するワケ…色川冬馬氏「真のチャンピオンに」

[ 2026年2月13日 19:22 ]

色川氏
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 アマチュア野球の指導者らに采配やチーム運営などについて、インタビューする連載「指導者の思考法」。第13回はBCリーグ・群馬ダイヤモンドペガサスの会長付特別補佐で、ブルワーズのスカウトとしても活動する色川冬馬氏(36)。多忙を極めるメジャー球団のスカウトでありながら、中学生年代の育成も担う原動力について聞いた。(取材 アマチュア野球担当キャップ・柳内 遼平)

 ――1月上旬には「ボーイズ東北選抜」の団長として台湾の国際大会に帯同し、3位の好成績で終えた。なぜ、多忙なメジャースカウトでありながら中学生年代の活動に関わる。
 「中学生世代の選手たちを率いて海外の国際大会に参加することについて、私なりの明確な目的があります。それは単に野球の勝ち負けを競うのではなく、彼らに“考える力”をつけさせるための教育プログラムを実践することです。それはGMを務めていた茨城アストロプラネッツ時代も同じでした。月に1~2回、選手を集めて行っていた“座学”がベースになっています」

 ――具体的には。
 「そもそもスポーツとは何か、コーチという言葉の語源は何か、といった根源的な問いから始まり、スポーツマンシップや野球の本質について掘り下げていきます。特に海外では、自分たちの国の歴史を知ることが非常に重要です。日本は世界で長い歴史を持つ国で、文化や歴史、立ち居振る舞いが、世界で高く評価されている。大先輩方が築き上げてくれた信頼があるからこそ、海外の方も温かく迎えてくださる。その事実を知ることで、彼らは誇りを持ち、存在価値を再認識できると考えています」

 ――座学の反応は。
 「最初は戸惑いもあるでしょう。野球をやりに来たのに、毎日1時間の座学があるわけですから。しかし、日を追うごとに彼らの目が輝きだし“今日はどんな話が聞けるんだろう”とワクワクして集まってくるようになりました。決勝トーナメントが近づくにつれ、“真のチャンピオンとグッドルーザー”というテーマで講義をしました。これは、トーナメントで最後に勝つ1チーム以外は、みな敗者になるという現実を踏まえ、ただ強いだけの“チャンピオン”ではなく、負けた相手の思いも背負い、それを代弁できる“真のチャンピオン”であれ、と説くものです。彼らはこの1週間で、私が伝えたことのすべてを消化することはできないでしょう。しかし、人生のどこかで必ず響いてくる“種”を、彼らの心にたくさん蒔くこと。それが私の役割だと考えています」

 ――MLBスカウト活動と、今回のような中学生への教育活動は少し距離があるように感じる。
 「私自身、野球を通して海外に出たことで視野が広がり、日本の素晴らしさと同時に、もっと多様な価値観があっていいのだと知りました。今回集まった東北選抜の選手たちは、各地域のエリートです。将来的にはドラフトにかかるような選手も出てくるでしょう。彼らのような将来ある若者たちに、野球界だけでなく、社会の仕組みや、地域を支える素晴らしい大人たちがいることを知ってほしい。例えば、遠征前には地元の市長への表敬訪問があります。最初はピンとこなくても“ニュースに出ていた市長に会ったことがある”という小さな接点が、社会への関心につながっていく。野球は、そうした社会の成り立ちを学ぶための、最高の“ツール”だと考えています」

 ――昨年からブルワーズのスカウトに。1年間活動され、日本の育成環境をどう捉えた。
 「改めて、日本の指導者の方々の教育者としての姿に感銘を受けました。それぞれスタイルは違えど、選手の人生にとってのベストな選択肢を真摯に追求されている。そして、日本野球が持つ規律の高さ、厳しさ、そして緻密さは、世界に誇るべき価値だと再認識しました。例えば、ある高校の練習で、ランダウン・プレーで挟まれた走者がどちらの方向に転ぶべきか、という練習をしていたのです。効率を求めるアメリカの野球では、まず見られない光景です。しかし、この緻密さが、昨年のU18で日本が見せたタイブレークでの戦い方など、組織としての強さに繋がっている。個の能力では劣るかもしれない相手に、組織力で勝利する。これは日本野球の“底力”であり、世界遺産と呼んでもいいほどの価値があると感じています」

 ――一方で、日米の育成における考え方の違いもある。
 「そこがまさに、私が今最も頭を悩ませている部分です。アメリカや中南米の選手は、15歳の頃から“25歳で最高のメジャーリーガーになる”という明確な目標を持ち、逆算してキャリアを構築します。一方、日本の高校生は“甲子園優勝”が最大の目標になることが多い。どちらが良い悪いという話ではありませんが、世界の野球界がボーダーレス化する中で、日本の若い選手たちにもっと多様な選択肢と、グローバルな視点を提供する必要があると感じています。私が中学生の大会に足を運ぶのも、彼らに“君にもメジャーリーグという可能性があるんだ”ということを示すためです。夢を語ることを躊躇するのではなく、大きな夢を描き、そこに全力で向かってほしい。そのための環境を作ることが、私の使命の一つです」

――最後に今後のキャリアについて。将来的に実現したい目標は。
 「私の次なる目標は“NPB球団のGMになる”ことです。GMとして必要な実力を身につけるため、この3月もブルワーズの組織の中で、スカウティング、マネジメント、組織論など、あらゆることを学んできます。野球を通して若者が夢に挑戦できる環境を作り、多様な選択肢がある今の時代だからこそ、逆境に打ち勝ち、挑戦し続けられる社会をつくっていく。その一助となるべく、これからも学び、行動し続けていきます」

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