【内田雅也の追球】優勝目前の広島を思う 阪神も虎党の“希望の源”に

[ 2016年9月9日 11:15 ]

マツダスタジアムの外周にある「カープ誕生物語」像

セ・リーグ 阪神1―3巨人

(9月8日 甲子園)
 記者席に大入り袋を配る女性球場職員が「ちょっとだけ久しぶりですけど」と笑った。この夜の甲子園は2試合連続で途絶えていた満員御礼(観衆3万7千人以上)をクリアしていた。

 観衆発表は3万8473人。なかには広島のレプリカユニホームを着た人の姿も見かけた。広島優勝のため「阪神がんばれ」というわけか。

 試合前、阪神球団社長・四藤慶一郎が空席目立つスタンドに「ファンの関心はすでに“来年はどうなのか”に移っている。それは承知している」と漏らしていた。阪神ファンは毎年のように、秋風吹く、この時期になると「来年がありまっさ」と希望をみている。

 優勝目前の広島を思う。1950年(昭和25)の球団誕生時から<茨(いばら)の道だった>と初代球団代表・河口豪(とし)(97年死去)が著書『カープ風雪十一年』(60年・ベースボール・マガジン社)で記している。支払えなかった加盟金のメドが立ち、セ・リーグ会長・鈴木龍二に存続を伝える時には<不覚にも目頭を熱くした>。選手一同に説明した場所は、この甲子園で<もう完全に両眼は涙にぬれていた>。先人たちの労苦を思う。

 原爆で廃虚となった街に希望を、復興のシンボルに、と夢を抱いた市民球団だった。マツダスタジアム外周にある「カープ誕生物語像」が伝えている。プロ野球とはそういうものだ。

 阪神も希望の源でありたい。甲子園に集まった3万8千観衆の多くはそんな人びとなのだ。

 あらためて阪神の「球団の使命」を読み返してみる。「プロ野球を通じて、お客様に感動と喜びを与える、健全で優れたエンターテインメントを提供します」とある。

 ならば、この夜、8回表1死まで無失点と好投した新人・青柳晃洋には希望が見えた。1回表の3安打だけで巨人打線を球威で押し込んでいた。

 もちろん、8回表1死からの連続死球はもったいなかった。直後、救援起用した藤川球児が代打・坂本勇人に逆転3ランを浴びるという悲劇には言葉を失った。

 今季甲子園での巨人戦は9敗1分け。球団ワースト記録がまた伸びた。

 この原稿を書いている最中、スタンドに居残った男性が「このまま負けっぱなしかよ~」と叫んだ。犬の遠吠えのように響いた。彼もまた、阪神に希望をみている一人である。 =敬称略= (スポニチ本紙編集委員)

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2016年9月9日のニュース