ジョセフジャパン 4年後へ“残された課題”

[ 2019年11月22日 10:00 ]

<ラグビーW杯2019>スコットランドに勝利し、歓喜の日本代表
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 ラグビー日本代表のジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)の続投が決まった。新たな契約は次のW杯が開催される2023年末まで。まずは前回W杯後のような、正規のヘッドコーチ不在の空白期間が生まれず、強化が継続される点をポジティブに受け取りたい。本来なら、それは当たり前のことかも知れない。逆に言えばそれほど、ジョセフHCの争奪戦は風雲急を告げていたと聞く。

 次に着手すべきは、スタッフの陣容を固めること。トニー・ブラウン・アタックコーチ、長谷川慎スクラムコーチについては、日本協会が水面下で交渉し、基本合意に達している。一方で8月にはジョセフHCとも基本合意に達しながら、日本協会が正式オファーを出せず、一時は続投に暗雲が漂った。つばを付けていても、書面でサインを交わさない限りは、何の効力も発しない。すでにジョセフHCに対して高い忠誠心を示している2人だが、日本協会はそこに甘えず、誠意ある対応をする必要がある。

 もう1人の名参謀、スコット・ハンセン・ディフェンスコーチは、年明けからスーパーラグビーのクルセーダーズのコーチを務めることが決まっている。その点ではハイランダーズと3年契約を結んでいるブラウン氏も同様だが、ハンセン氏はチームのみならずニュージーランド協会と契約を結んでおり、兼任へのハードルが高いという。W杯で明らかだったように、大舞台ではよりディフェンスが重視される。ディフェンスコーチはこの3年間で2度の交代があった役職。ハンセン氏をつなぎ止める方法を探るのか、あるいは新たな人選に着手するのか、注視したいところだ。

 スタッフの陣容が固まった後は、どのような強化策を採るか、方針を決めなければなるまい。日本は16年から参戦してきたスーパーラグビーから、20年シーズン限りで除外されることが決定済み。21年以降の参戦継続へ主催団体と交渉しているとはいえ、見通しは明るくない。テストマッチ以外で世界と戦う舞台が大きく減る中で、代表選手や将来の代表候補にどのように経験を積ませるのかは、喫緊の課題となる。

 この4年間の強化策は、日本代表にとって一つの転換期となるはずだった。12~15年のエディー・ジョーンズ前HC体制では、一部選手のみがスーパーラグビーに挑戦し、その他の選手は代表合宿が主たる鍛錬の場だった。当時、前HCは「国際レベルの選手を育てるのが自分の仕事ではない」と口癖のように繰り返した。だが残念ながらトップリーグや大学ラグビーでは事足りず、早い段階で15年W杯に向けて選手を絞り込み、W杯イヤーは4月から合宿を継続してフィットネスやフィジカルといった基礎体力の向上を図った。日本ラグビー界の構造に足りていなかった代表強化のシステムを補うため、長期合宿というプロジェクトで補完した。

 16年からの4年間は、そうしたプロジェクト型の代表強化から脱却するはずだった。カレンダーの中にスーパーラグビーが入り、国際レベルの試合を通じて強化や選考、発掘を繰り返して最終的に31人に絞り込む。最初の3年はこのサイクルが回ったが、今年はまとまった休養をはさみながらも、2月から250日間もの代表活動を行い、W杯で史上初の8強入りを果たした。自国開催というスペシャルなW杯に向け、全てを投下した250日間に異論も反論もない。ただ、4年後、8年後は、同じ強化策は採れないだろう。システムの構築という課題は、次の4年に残されたままだ。

 活況を呈するラグビー界だが、日本代表に準ずる機能を果たし、人気を支えてきたサンウルブズは、ラストイヤーの20年はこれまでと全く様変わりした選手の面々となる。選手の生活基盤=報酬を支えてきたのは、あくまでトップリーグの各所属チーム。昨季はプロテクト枠と呼ばれる代表候補選手の出場を制限する規則まで設けられ、今年は2月から選手を代表に差し出してきたチームの立場に立てば、トップリーグの新シーズンと重複する来年のサンウルブズへの派遣は、“もう勘弁してくれ”だろう。選手派遣のみならず、今年春先に代表候補合宿が行われたキヤノン、NTTコムの練習施設は、基本的に無償提供だったという。さらに言えば、ジョセフHCをはじめとするスタッフの報酬や生活面のサポートも、日本協会だけでは持ちきれず、個別のチームが負担していた事実がある。各チームに身銭を切ってもらい、その上に成り立った史上初の8強入り。こうした構造も、今後は抜本的に改善されなければならない。

 折りしも21年秋からのプロリーグ発足へ尽力する日本協会の清宮克幸副会長は、19日にさいたま市内で行われた討論会で「今回のW杯はスペシャル。250日、(トップリーグ各チームに選手を)派遣してもらった。そんな強化はこの先、絶対にできない」と語った。そしてプロリーグ自体を「代表強化の観点で言うと、選手がレベルの高い環境でプレーするためにも、プロ化が必要」と理念を示した。

 当初は今月中にプロリーグの概要が発表される見込みだったが、「総論賛成」(清宮副会長)の一方、まだまだ協会内、そしてトップリーグ各チームの足並みが揃わず、来月以降に持ち越しとなった。推進する副会長が「個人的にはかなり不満。こんなスピードで21年からできるのか」と話す気持ちはよく分かる。一方で後ろ向きなチームを含め、粘り強くコンセンサスを得てから前に進めることが大切ではないだろうか。それが多くの犠牲を払ってきた各チームに対する、日本協会が示すべき恩義と考える。

 日本協会によれば、現時点で年内にジョセフHCが会見する予定はない。年が明ければしかるべき時期に、指揮官自らスローガンや今後の強化方針、23年W杯の目標などを発表する場が設けられるだろう。まずはその時を待ちたいが、個人的には次回W杯の目標も「8強入り」で十分と考える。海外での大会、間違いなく今回よりも条件が悪くなる試合日程、さらに高まる海外勢からのマークなどを考えれば、8強入りの難易度は格段に増すからだ。

 ラグビー人気の定着、競技人口の確保、協会財政の強化など、代表強化以外にも着手すべきことはたくさんある。いずれも決して一筋縄では行かないが、不可能と思われていたことが実現したのを、私たちは目の当たりにした。日本ラグビー界全体が、次のフェーズへと進むべき時だ。(阿部 令)

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