陸上200メートル男子 走る“哲学者”小池祐貴が挑む「19秒台」への方程式

[ 2018年11月27日 10:30 ]

加藤綾子アナが見つめる前でスタート姿勢をとる小池(撮影・小海途 良幹)
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 【カトパン突撃!東京五輪伝説の胎動】ジャカルタ・アジア大会の陸上男子200メートルで20秒23の記録を出し、日本人では同大会12年ぶりとなる金メダルを獲得した小池祐貴(23=ANA)。自らの走りを徹底的に分析してレースに臨む姿は求道者のたたずまいだ。これまで後塵(こうじん)を拝してきた陸上男子100メートルの日本記録保持者で同学年の桐生祥秀(22=日本生命)の背中も見えてきた。そんなアジア王者の“勝利のメソッド”を加藤綾子アナウンサー(33)が引き出します!

 ――アジア大会の金メダル、おめでとうございます。1000分の2秒差でのゴール。あの瞬間はどうだったんですか?

 「フィニッシュして“やばい転ぶ”と思ったら転んだ。モニターに記録が出てなくて勝ったのか負けたのか、どっちなんだろうと思った。転んだせいで頭の中が揺れてたのか、状況がよく分からなかったですね(笑い)」

 ――勝ったとは思わなかった?

 「最後の20メートルくらいは2位の選手と並走していて相手の肩が見えていた。そこで最後にパッと映像が頭に浮かんで右肩を出した」

 ――最初から調子は良かった?

 「トップ通過した準決勝の走りが一番。その反動で決勝の朝の疲労感が半端じゃなかった。20秒3の体の負荷を見誤りましたね。200メートルを走りきるエネルギーがない。トップスピードを出しにくい3レーンで、まずいと思いながら本番を迎えました」

 ――レーンで、そんなに違うものですか?

 「科学的に証明されているんですけど1レーンと8レーンで0・2秒くらい違う。外の方が走りやすい。大体ラウンドごとに速い人が真ん中から外のレーンで走る。トップ通過なのに決勝で3レーンに決まった時は周りの空気が“えっ何で?”ってなりましたね」

 ――レース中に走り方を修正できる?

 「それは無理ですね。レースプランはウオーミングアップの段階まで。あとはレース前に風の状態をみたり、競技場によってカーブの角度も全然違うのでトラックを見たりします。直線が長ければ、長くスピードを維持する形で走ります」

 ――普段からどんな気持ちでレースに?

 「僕の中で何も考えずに臨むのは手を抜いていることになる。コンディショニングを含め1から10までレースを構成する要素は全て決めて臨む。その上でベストを出さないと次につながらない。いま出せる全力を尽くすのが自分のスタイル」

 ――メンタル面もですか?

 「レース前に2カ月くらいかけて調整します。特に100メートルはメンタル面が大切です」

 ――100メートルと200メートルの違いは?

 「200メートルは、100メートルよりスピードが遅くてコントロールできる範囲が多い。でも考えて出られるのは20メートルくらい。100メートルは最初の3歩を失敗したら残りの四十数歩が駄目になる。一番大事なのはスタートのゼロ歩目。だから、皆あれだけスタートの練習をする」

 ――東京五輪への展望も少し見えてきた?

 「20秒03の日本記録は超えないといけない。ファイナリストになって決勝に出ることを考えると、19秒台じゃないと駄目。こんな純日本人みたいな体形でも世界のトップレベルと戦えるところまでは行きたい」

 ――コンディションを整えるのも大変?

 「食事はマクロ管理法を取り入れていて、睡眠学の勉強もしています。深い眠りに入るためどういう姿勢で寝るのがいいかとか」

 ――お酒で酔っぱらって寝るのが良いとか、ちょっと思ってる自分が恥ずかしい。そんな気持ちを戒めたい。本当に23歳なんですよね?なんか哲学者か経営者の方と話してるみたいです(笑い)。

――リオ五輪の陸上男子400メートルリレー。銀メダリストの山県亮太選手は大学の先輩でもありますけど学ぶことは多かったですか?

 「山県さんは準決勝で失敗しても決勝では修正して絶対にいい走りをする。決勝で一番の結果を出せるメンタルは凄い。普通は無理です」

 ――山県選手も陸上に関する知識が深い?

 「芸術家のようです。レースを一つの作品と考えているんじゃないですかね。非常に細かい。自分の走りを映像で見てイメージ通りに簡単に修正できてしまう。どれだけ練習してもあの感覚にはなれない」

 ――同学年でライバルの桐生選手は?

 「彼は野性的なタイプ。音鳴ったら出りゃいいんだよって感じ。感覚派の人は勢いでいけちゃう。僕にはないものです(笑い)」

 ――高校時代からずっと戦ってきた?

 「レベルの違う選手でした。あそこまで行かないと日本のトップになれないというのを経験できた。改めて運のいい時に生まれたなと思います。本人には言ったことないですけど、ありがたい存在です(笑い)」

 ◆小池 祐貴(こいけ・ゆうき)1995年(平7)5月13日生まれ、北海道小樽市出身の23歳。小学校から立命館慶祥中までは野球部に在籍。中3から陸上を始める。18年の日本選手権の100メートルで4位。100メートルの自己ベスト10秒17。慶大からANA、12月1日より住友電工に所属。1メートル73。

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