上野由岐子 5年後に懸ける思い「早く私が投げなくてもいい日を」

[ 2015年9月7日 10:00 ]

上野由岐子

 「私が活躍しているようでは、東京で勝てないと思います」

 20年五輪で実施種目入りが濃厚となっているソフトボール女子。33歳にして今も日本代表の大黒柱たる上野由岐子(ビックカメラ高崎)は、5年後について聞かれると、いつもそう答えている。そこには「失われた時間」の葛藤と哀しみが含まれているようで、胸が締め付けられる。

 08年、北京。「米国を倒して五輪金メダルを獲る」。唯一無二の目標に向かって、上野はまっすぐに走っていた。五輪実施競技から外れることが決まっていた最後のチャンス。決勝トーナメントで413球を投げ抜き、夢を叶えた。競技者として頂点に立った夏だった。それから7年。ともに戦った仲間たちは、ほとんどが引退し、新たな道を歩み始めた。

 上野にも「次の夢」がなかったわけではない。高校の指導者になりたいと将来像を描き、通信制大学のパンフレットを取り寄せたこともあった。だが、別の道を歩むには、上野が背負ったものは大きすぎた。ソフトボール界のアイコン。伝説の女。苦境に立たされた競技に、背を向けることはできなかった。そして今年も、上野はエースとしてグラウンドに立った。日本代表でも、先週末に再開した日本リーグでも。

 だからこそ「次の選手を育てたい」という思いは切実だ。ベンチで若手に1球1球、解説しながら試合を見守る姿は、オーラをまとったかつての姿とは異なる。「早く私が投げなくてもいい日がくればいい」。緊張、興奮、集中、歓喜。膝の痛みに悩まされる今も現役にこだわる理由の1つは、自分が味わったすべてを他の誰かに引き継ぎたいという渇望なのではないか。

 5年後の五輪。それは上野にとって、輝くべき場所ではなく、呪縛から解放されるべき舞台なのかもしれない。20年東京の組織委員会は28日の理事会で国際オリンピック委員会に推薦する追加種目を決める。(首藤 昌史)

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2015年9月7日のニュース