桐生「9秒87」生んだスタートの工夫 追い風参考でも「体感できた」

[ 2015年3月30日 05:30 ]

テキサス・リレーの男子100メートルで、追い風参考ながら9秒87で優勝した桐生祥秀(中央)

陸上 テキサス・リレー

(3月28日 米テキサス州オースティン)
 歴史的快走だ。男子100メートル(タイムレース)で、日本歴代2位の10秒01の記録を持つ桐生祥秀(19=東洋大)が、3・3メートルの追い風参考ながら9秒87で優勝した。95年に伊藤喜剛が追い風9・3メートルで9秒8、99年に伊東浩司が追い風1・6メートルで9秒9をマークしたが、ともに手動計時。追い風2・0メートル超の条件下の記録は公認されないが、電気計時では日本人で初めて9秒台に突入した。4月19日の織田記念国際(広島)で、公認の9秒台にアタックする。

 スプリンターの誰もが夢見る領域に、ついに足を踏み入れた。今季初戦、昨年の世界ジュニア選手権以来、248日ぶりの100メートル。3・3メートルの追い風を受け、桐生がトップスピードでゴールに飛び込んだ。日本初の電気計時9秒台。それも9秒9台の後半ではなく、9秒87だ。陸上の本場・米国の観衆が沸く中、トラックを後にした19歳が会心の笑みを浮かべた。

 「追い風参考だが、初めて9秒台が出て良かった。9秒台を体感できた。久々のレースなので楽しもうと思った。100メートルを走るのは楽しい」

 昨季まで得意とはいえなかったスタート。この日はブロックを置く位置を、より前後に大きくずらすことで「苦手意識がなくなった」と言う。号砲に鋭く反応すると、ストライドを広げた新走法で加速。中盤でトップに立つと、9秒88の自己ベストを持つ12年ロンドン五輪5位のベイリー(米国)らの猛追を振り切った。

 「気持ちよくスタートできた。50メートルからはスピードに乗って、いつもよりリラックスして走ることができた」

 東洋大に進学し初の寮生活など環境の変化に戸惑った昨年は、度重なる故障に苦しんだ。4月に右太腿裏、6月に右足底部を痛め9月は左太腿裏肉離れを発症。最大目標のアジア大会に出場できなかった。今季に向け、オフは100メートルの日本記録を持つ伊東浩司氏に師事し肩甲骨や股関節の周辺を柔軟にするストレッチを取り入れた。筋力トレーニングも導入。「お尻が大きくなった。高いレベルでスピードが出せる」。つかんだ手応えは、いきなり結果として表れた。

 洛南高3年だった13年4月、織田記念国際で10秒01をマークし、一気に日本のトップに躍り出た。あれから2年。「今回はレース終了後に疲れも痛みもない。冬の間に体の土台ができた」と成長を実感している。次戦は4月19日、高速トラックで、2メートル前後の絶好の追い風が吹く織田記念のスタートラインに立つ。「9秒台を一番、最初に出したい。最初に出したら、名前を残せるんで」。まずは追い風参考で歴史にその名を刻み、そして公認の9秒台へ。日本陸上界の夢は、もうすぐ現実に変わる。

 ▼男子100メートルの記録 世界記録はウサイン・ボルトが09年にマークした9秒58。桐生の9秒87は公認タイムだと、9秒86のカール・ルイスらに次いで、世界歴代20位になる。12年ロンドン五輪では5位、13年モスクワ世界選手権では銅メダルに相当する好タイム。

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