「ブギウギ」趣里の涙の歌唱 神髄が見える回

[ 2023年12月7日 08:18 ]

連続テレビ小説「ブギウギ」でスズ子(趣里)が「大空の弟」を歌う場面(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】12月7日放送のNHK連続テレビ小説「ブキウギ」第49回に俳優の趣里(33)が演じる主人公・スズ子が涙ながらに「大空の弟」を歌う場面があった。

 制作統括の福岡利武氏は「『大空の弟』はとても難しい歌です。これまでスズ子はお客さんに向かって思い切りパフォーマンスする曲を歌ってきましたが、この歌は弟・六郎への思いを表さないといけない。趣里さんは撮影前に何度も練習していました」と話す。

 「大空の弟」はスズ子のモデルとなった歌手・笠置シヅ子さんが、戦争で亡くなった弟・八郎さんへの思いを込めて歌った曲。ドラマの主要登場人物の1人・羽鳥善一(草なぎ剛)のモデルとなった作曲家・服部良一さんが作ったもので、戦後は歌われることがなかったが、楽譜が残っていた。

 今回、趣里が歌うに際して「ブギウギ」の音楽担当・服部隆之氏(服部良一さんの孫)がドラマ用に編曲した。

 福岡氏は「服部良一さんは戦争の歌を作るのが苦手でした。しかし、弟に対する笠置さんの思いを歌にしなくてはいけないという思いから『大空の弟』を作りました。当時の日本にたくさんいたであろう、戦争で家族を亡くした方々に寄り添う良い歌だと思います。音源は残っていないので、趣里さんがどのようなリズム、どのようなテンポで歌えば良いのか、隆之さんと議論しました。隆之さんは楽譜を見て考え、祖父の思いを込めつつ、少しだけ自分の思いも入れて編曲しました。歌詞はドラマに沿って少し変えました」と説明する。

 歌唱場面は約4分に及ぶ。スズ子は茨田りつ子(菊地凛子)との合同コンサートのステージで、ピアノの伴奏で静かに歌い出すが、六郎への思いが詰まった詞を歌い続けるうちに感情がこみ上げ、涙を流し、最後は泣き崩れる。

 福岡氏は「たくさん議論して作った場面でした。趣里さんのあの歌はステージでそのまま録音したものです。事前録音でうまく歌ってもらうことより、ステージ上で弟への思いをしっかり表してもらうことを大事にしたかった。非常にエモーショナルな歌になったと思います」と手応えを明かす。

 スズ子は泣き崩れた後、気を取り直して「ラッパと娘」を歌う。戦時下、警察の指導でステージ上での派手な動きを禁じられ、定められた枠内での歌唱となったが、これまで以上の力強さ、躍動感が映像からうかがえた。

 福岡氏は「『大空と弟』の気持ちを吹っ切って歌う場面でした。趣里さんの気持ちの振れ幅も大きいので、うまく力が入って、良いパフォーマンスになったと思います」と趣里の芝居をたたえる。

 この第49回は、茨田りつ子の「雨のブルース」(歌手の淡谷のり子さんが歌った曲)からスズ子の「大空の弟」「ラッパと娘」と続き、約15分のドラマの大半が歌唱場面だった。スズ子が初めてステージで「ラッパと娘」をフルコーラス(約3分)で歌った第30回(11月10日放送)以上の異例の構成だ。

 福岡氏は「そうですね。普通はやらないと思いますが、『ブギウギ』はそういう作品だと思いますし、歌への思いやバックステージもしっかり描いています。このドラマには、歌を大事にしたいという思いがあります」と話す。

 この作品の神髄が見える回となった。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局文化社会部専門委員。テレビやラジオ、音楽、釣りなどを担当。

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