人はなぜ旅をするのか? 定年旅約880キロ…「結びの地」で考えたこと

[ 2023年8月1日 08:00 ]

三陸鉄道リアス線に乗って南下
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 【笠原然朗の舌先三寸】人類を称する言葉に、知恵ある人「ホモ・サピエンス」、遊ぶ人「ホモ・ルーデンス」がある。加えて「ホモ・モビリタス」。「旅する人」だ。

 松尾芭蕉は「奥の細道」へ旅立つ動機を「漂泊の思いやまず」と記した。この方こそ「モビリタス」の代表だ。

 60歳の定年を前に取得した長期休暇。夏の三陸を列車と徒歩で結ぶ旅の中で、「人はなぜ旅をするのか?」を考え続けていた。

 現代社会で旅をするために必要なものは何か? 「移動の自由」と「自由な時間」だろう。

 そんなの当たり前の話と思うかもしれない。だが「移動の自由」に関しては、世界各地の紛争地域では、国という牢獄につながれて移動の自由さえままならない人たちが多い。そこでは移動すること自体が「命がけ」となる。

 「自由な時間」はどうか?日本では「働き方改革」など各所で声高に叫ばれているが、長期休暇を取得するのはまだ難しい。私も25年以上、病気以外で5日以上の休暇を取得したことはなかった。

 現代社会において旅が成り立つための条件は、まず平和であることだ。そして自由な時間=余暇が容易に取得できる「余裕」を社会が持てているかどうかだろう。

 「余裕」は経済的な問題ともつながる。必死に働いても食べることだけで精いっぱい、では旅に出ようなどとは思わないだろう。

 宮古から三陸鉄道リアス線に乗車。終点の岩手県大船渡市の盛(さかり)駅まで。23駅約2時間半の“乗り鉄”旅だ。陸中山田、大槌、釜石など東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた地域をつなぐ。

 巨大な防潮堤が海の景観を遮り、駅前には夏草が茂る原っぱが広がっており復興のいまを知る。被災した人の中には、ここで生き、世代をつなげていくことに悩み続けた結果、ふるさとを離れた人も多くいるはずだ。 長い歴史の中では数々の自然災害が人類に襲いかかった。その結果、住んでいる場所を離れざるを得なくなる。やむにやまれず新天地を目指しての冒険行もまた旅だ。

 盛駅のホームへ列車が滑り込んだ。ここを定年旅約880キロの「結びの地」とする。

 それにしても岩手県は広い。太平洋に面する三陸の海岸線は700キロ以上ある。その随所に自然が創る絶景がちりばめられてある。青森県八戸市と宮城県仙台市を結ぶ全長359キロの三陸復興道路も全船開通。各地からアクセスしやすくなった。是非、訪れていただきたい。

 「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」

 芭蕉辞世の句だ。

 人はいつか死ぬ。死の床で去来するものは何か?この夏の思い出だったとしたら旅に出た甲斐があったというものだ。 

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