舟木一夫の世界・その1 舞台で「空間をさばく」

[ 2021年11月25日 08:30 ]

舞台「壬生義士伝」で吉村貫一郎を演じる舟木一夫
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 【牧 元一の孤人焦点】歌手の舟木一夫(76)が12月3日から東京・新橋演舞場で特別公演を行う。舞台「壬生義士伝」とシアターコンサートの2部構成。「壬生義士伝」は浅田次郎氏(69)の小説が原作で、女優の高橋惠子(66)、俳優の田村亮(75)らと共演する。本番に向けて稽古が続く中、話を聞いた。

 ──舞台で芝居をするのは面白いですか?

 「面白いです。時代劇が大好きですしね。なぜ1カ月公演をやるかと言えば、生でお芝居をお見せするためです。誤解を恐れずに言えば、お芝居が主で、歌の方もお聞かせするという感覚。今はお芝居が90%くらいの感じです」

 ──舞台での芝居はやはり映像での芝居とは違いますか?

 「舞台はロングもなければアップもない。ロングとアップを自分の所作で見せる。それがいちばんの難しさで、それができるようにならないと、舞台でオーラを放つ役者になれない。それは歌い手も同じなんですよ。テレビに出ればカメラが寄ったり引いたりしてくれるけれど、ステージで緞帳が上がれば自分をアップで見てもらうような歌い方をしなくちゃいけない。僕はそれを『空間をさばく』『ステージをさばく』と言います。お芝居も同じところがあります」

 ──あえてうかがいますが、舟木さんは俳優なのですか?

 「お芝居をしている時は役者です。歌っている時は歌い手です。そうじゃなかったら、時代劇には手を出さないです。乱暴な言い方をすれば、歌い手が本当のお芝居に挑戦すると、ずたずたに切られます。なんとか急所を外して死なないように、心臓だけは守りながらやる。僕は黒いアヒルのようなところがあるんです。19歳でNHK大河ドラマ『赤穂浪士』に引っ張り出されて、レギュラーで1カ月公演をやるようになった。いきなり戦場に出て鉄砲の撃ち方を覚えるようなものです。初めのうちは先輩たちの見よう見まねで、自分の非力に気づいて、そこから、たてを手に入れ、やりを手に入れ、やって来ました」

 ──今回はなぜ「壬生義士伝」を選んだのですか?

 「4年前に演舞場で『忠臣蔵』をやりました。大石内蔵助という役どころまで行ってしまって、次にまた時代劇をやるとなると、全く違う景色にしなくちゃいけない。『壬生義士伝』は浅田先生の本が出た時、まさか自分がやることになるなんて思わずに、読んでいたんです。新選組が面白い角度から描かれ、どんな時代でも変わらないものが根底にある」

 ──演じる主人公・吉村貫一郎はどんな人物ですか?

 「特別な人物じゃない。剣に強いけれど、貧しさがあり、家族がある。現代劇のニュアンスの方が伝わるんじゃないかと思います。どこかドキュメンタリーのようなところがあります」

 ──およそ1カ月続く公演は大変でしょう?

 「歌い手にとって最もハードなのは1カ月公演なんです。お芝居でセリフを言って、歌うから、声帯にとても負担がかかる。今、稽古しながら『オレはバカだな』と思ったりもします。でも、そういうバカさも楽しんでいるんですよ」

 なぜ困難なものに挑むのか…。それが面白いからということもあるだろう。サービス精神もあるだろう。しかし、話を聞いて感じたのは、プロとしての覚悟だ。現役を続ける限り、困難を乗り越えながら進んでゆかなければならない。そんな真摯な姿勢が今回の舞台に凝縮されるのだと思う。そして、もう一方の歌の世界は…。(つづく)

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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