桂歌丸 高座に上がり続ける理由「目ぇつぶる時まで苦しみ続けますよ」

[ 2016年4月10日 10:20 ]

79歳の今も高座に上がり続け、客席を魅了する桂歌丸

 落語家の桂歌丸(79)が今年で芸能生活65年を迎える。レギュラー出演する「笑点」も丸50年。区切りの年で高座にも注目が集まるが、昨年は2カ月近い長期入院を経験し、体調は万全とは言えない状態だ。それでも高座に上がり続ける人気落語家の気構えを聞いた。 

 中学3年生の3学期には古今亭今輔に弟子入りし、4月には高座に上がった早熟な落語家人生。しかし、若気の至りで22歳の頃に師匠と考え方の違いから衝突し、2年半近く高座を離れた。そのつらさが身に染みたから、今も話芸の鍛錬に精進する。「笑点」でお茶の間の人気者となっても、心の中では「大喜利の歌丸では終わらない。私は落語家の歌丸なんだ」と思い続けた。

 江戸から明治時代にかけて活躍した、落語中興の祖である三遊亭円朝の人情噺や怪談噺の掘り起こしを94年ごろから行っている。円朝は明治の言文一致運動にも一役買った人物で残した作品も膨大。代表的怪談「真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)」は全97章の一大叙事詩だ。歌丸にとっては落語家人生を代表するライフワークで、毎年4月と8月には、国立演芸場で“円朝もの”を上演。1時間を超える大作もあり、それを語り一本で客席を魅了する話芸はまさに名人芸だ。

 ただ1時間も精神を研ぎ澄まして語り尽くすことは相当骨が折れる作業。昨年8月の国立演芸場の後は「しばらく寝込んだ」というほど体力を消耗した。そんな中で11日から20日まで、同所で江戸時代の豪商を描いた円朝作「塩原多助」の「出世噺」を披露する。

 「そりゃ苦しいですよ」と正直に現状を吐露する。でも、すぐに普段のひょうひょうとした顔に戻った。「楽しいこともいっぱいあるんですよ。満員のお客さんに笑っていただいたり、人がめったにやらない話をやってお客さんに“良かった”と言われたり。そんな時は落語家冥利(みょうり)に尽きるんです。そういう思いをするために苦しんでる。だから私は目ぇつぶる時まで苦しみ続けますよ」

 生涯の大半を落語にささげた噺家の気構えだった。

 ◆桂 歌丸(かつら・うたまる)1936年(昭11)8月14日、神奈川県生まれの79歳。出囃子(でばやし)は「大漁節」。51年に古今亭今輔に入門し古今亭今児を名乗る。54年に二つ目昇進。一時落語界を離れたこともあったが復帰し、64年に現在の桂歌丸に改名。68年に真打ち昇進。04年には落語芸術協会の会長に就任。07年には落語での功績により旭日小綬章を受章した。

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