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元旦の甲子園にいた少年――希望の初日の出

元日早朝の甲子園球場。少年が一人、正面のレリーフを見つめていた(2018年1月1日午前6時52分)
Photo By スポニチ

 【内田雅也の広角追球】今年もまた、美しく、荘厳な光を拝んだ。甲子園球場で初日の出を撮影するようになって5年になる。当初はごく個人的な思いから、夜明け前、自宅から約3キロを歩いていた。3年前からスポニチ・アネックス上に写真と短い原稿をアップするようにしている。

 今年は前日の大みそかに降った雨の名残があった。阪神園芸のグラウンドキーパーたちによって美しく整地されたグラウンドは雨に洗われ、より汚れなく、空気は澄み渡っていた。マウンドにはいつも通りしめ飾りが立てられていた。野球の神様も魔物もすむという甲子園に新春の淑気(しゅくき)が漂っていた。

 今年は一塁側内野スタンド上段に陣取った。春夏の高校野球でテレビカメラが球場全景を映すとき、テレビ画面で見ていたアングルである。

 午前7時10分ごろ、紫色だった三塁側アルプススタンド後方の空が朱色に染まってきた。魔法の時間。パープルにオレンジが混じるマジックアワー。御来光である。朝日が顔を出したのは7時18分、雲の切れ間から黄金色の光の筋が差してきた。

 手を合わせて祈った。今年は春の選抜高校野球大会が90回、夏の全国高校野球選手権大会が100回という節目を迎える。本拠地とする阪神タイガースは金本知憲監督が3年目を迎え、2005年以来13年ぶりの優勝を目指している。高校球児や猛虎たちはもちろん、すべての野球人、ファンの球運と幸福を祈った。

 毎年同じように見える元日早朝の光景も、いつも何かが違っている。

 今年は入場する前、まだ夜が明ける前の6時半ごろ、球場正面に一人の少年がたたずんでいた。小学5、6年生だろう。防寒のトレーニングウエアを着込み、ランニングの途中に立ち寄ったという雰囲気だった。いかにも野球少年である。

 壁面にはめ込まれた3枚の大型レリーフに見入っている。説明文も熱心に読んでいた。

 レリーフは2009年7月、「平成の大改修」リニューアル工事完成を記念したものだ。「歓喜 高校球児」「伝統の継承 蔦(つた)に彩られた甲子園球場」「感動のリーグ制覇 阪神タイガース」をイメージした3枚で「歴史と伝統の継承」という共通テーマに添っていた。

 うれしくなった。小中学生の野球離れが叫ばれて久しく、野球界の将来が案じられている。自身も軟式少年野球を手伝わせてもらって5年、危機感は肌で感じている。

 それでも、今も、こんな少年がいるのだ。あの目は輝きに満ちていた。高校球児やタイガースの優勝シーンを思い浮かべ、自分の未来を重ね合わせる。昔から少年が思い描いた心だ。そんな憧れを抱いた舞台として、甲子園はある。目の前に堂々と立っていた。

 野球を愛する作家、伊集院静は子育ての相談を受けたとき「野球をさせなさい」と助言するそうだ。著書『逆風に立つ 松井秀喜の美しい生き方』(角川書店)にある。

 父と子の素敵(すてき)なキャッチボールを伝え、母が洗うユニホームの泥や穴を「息子さんが何かと戦っている証し」としたうえで書いている。

 <一人の少年が何年間かずっと野球をしてくれて、その結果彼がベンチを温めただけの選手生活であっても、スター選手となって活躍した同級生の何十倍もの素晴らしいものを得る。その得たものが何であったかは、すぐにはわからない。しかしその時の経験が、後にその人の人生に大きな力となる>

 人生に似ると言われる野球の持つ力である。野球をやろう。野球を見よう。そこに人生はある。

 甲子園球場初日の出の黄金色の光はあの少年にも降り注いだことだろう。彼は一人だったが、その向こう側にはチームの何十人、地域の何百人、全国何千、何万人という野球少年がいる。少女もいる。

 2018(平成30)年元旦、甲子園球場で明日への希望を見た気がした。=敬称略=(編集委員)

 ◆内田 雅也(うちた・まさや) 正月は和歌山の実家と大阪の妻の実家を訪れた。夫婦とも父親はすでになく、母親が独り暮らし。仏前に線香をあげ、健康や幸せを祈った。1963年2月、和歌山市生まれ。桐蔭高―慶大卒。2004年から編集委員(現職)。

[ 2018年1月4日 10:00 ]

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