錦織も利用 慶大野球部、費用1.7倍も米国キャンプ実施のワケ

[ 2016年3月8日 09:26 ]

元大リーガーのグリフィンコーチ(左)から打撃指導を受ける慶大・重田主将

 今年は日本ハムが米アリゾナ州ピオリアで、1987年以来、29年ぶりに海外キャンプを行ったが、近年は大学球界も海外志向が高まっている。慶大は現在、米フロリダ州ブラデントンで7年ぶりの海外キャンプ中。練習施設はテニスの錦織圭(26)が拠点としているIMGアカデミーで、同所を日本の学生団体が使用するのは初めてだ。費用はかかるが、日本ではなく、あえて世界基準の環境でキャンプを行うメリットとは――。

 東京ドーム48個分の広大な敷地の一角にある4面の野球場。澄み渡った青い空の下、天然芝の上でプレーする慶大ナインの表情が輝いている。「天然芝の上で野球ができるのは普段と違って楽しい。野球を始めた頃の気持ちに戻ったみたい」。主将の重田清一外野手(3年)が声を弾ませた。

 ここ数年は、ロッテと同じ沖縄・石垣島でキャンプを行っていた慶大。米国キャンプを敢行したのは、藤本洋平投手(3年)の提案がきっかけだった。同投手は慶応ニューヨーク高出身で、高校時代から同施設に通っていた。「以前ここに来た時は(13年ナ・リーグMVPのパイレーツ)マカチェンと一緒のケージで打撃練習ができた。トップの選手と一緒にできるのが魅力。みんなに今までなかった価値観を提供したかった」と話す。

 昨年1月にIMGアカデミーを訪れ、予算などを交渉。同2月に大久保秀昭監督に提案し、同6月には自らプロモーションビデオを作って、チームメートに力説した。費用は石垣島で行うより「1・7倍くらいかかる」(藤本)というが、社会人になってから返納できるシステムをつくり、実現にこぎつけた。近鉄時代にフロリダ州ベロビーチでキャンプを経験した大久保監督も「勝つことだけを考えれば日本でしっかり練習した方がいいけど、海外でやるメリットは野球の練習だけじゃない。海外で生活する経験が今後の人生に生きる」と賛同した。

 2月23日に日本を出発し、キャンプは3月9日までの約2週間。アカデミーに到着したナインは驚きの連続だった。広大な敷地内の移動手段は主にトロッコやカートを使用する。「スケールが違う」と重田主将。施設には同年代のトップクラスの選手が集まり、他競技からも刺激を受けた。

 アカデミーではメジャー球団も使用する動作解析システムも導入されている。肘、肩の角度や腕を振るスピードなどが全て数値化。角度が一定の範囲内を超えると故障を注意する警告まで出る。花巻東時代に日本ハム・大谷と同級生だった左腕・小原大樹(3年)は「体の開きが早いと言われてインステップにしてきたけど、逆に体の開きにつながっていることが分かった。肘の使い方も故障につながりやすいということだった」と話す。

 野球アカデミーには元大リーガーのコーチ陣10人が在籍する。今秋ドラフト候補のエース加藤拓也(3年)は、現役時代にバリー・ボンズとも対戦したことがあるスティーブ・フレイ・コーチから厳しい忠告を受けた。「ブルペンから試合を意識して、同じボール球でも高めではなく、低めに外すんだ。プロではボンズのような打者は失投を逃してくれない。君の意識はまだアマチュアだ」。中継ぎとして8年間メジャーでプレーしたフレイ氏の熱血指導に、加藤は「メジャーでやってきた方なので説得力がある」とうなずいた。

 テニス、アメフットなど各競技が一つにまとまり、トップアスリートが集う最先端施設を、藤本は「スポーツのディズニーランド」という。大久保監督はテニスの錦織に遭遇する機会もあった。「日本の野球とベースボールを融合できれば」と小原。トップクラスのノウハウが慶大流にアレンジされ、新たな伝統として受け継がれていく。(東尾 洋樹)

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