“天才”前田智 現役最後は投ゴロ「カープでいちずに野球ができた」

[ 2013年10月4日 06:00 ]

<広・中>前田智はナインに胴上げされる

セ・リーグ 広島3-5中日

(10月3日 マツダ)
 地鳴りのような「前田コール」が響く。2点を追う8回2死。孤高の天才打者が迎えた現役最後の打席に無数のフラッシュがたかれる。広島・前田智はユニホームの袖で目元を拭って打席に入った。

 今季最多3万2217人の大観衆が見守る中、2球目の高めのボール球をファウル。続く141キロを強いゴロではじき返したが、小熊が好捕して投ゴロに終わった。

 「段階を踏み、実戦をこなしていないと、難しい。体がボール球に反応してしまう。まあ、あんなもんでしょ」

 そのまま9回は右翼の守備へ。外野守備は08年7月25日の横浜戦(広島)で左翼を守って以来5年ぶり、マツダスタジアムでは初めてだった。藤井の三ゴロで一塁カバーに走り、森野の右翼線二塁打を処理。「もう(守備は)プロのレベルじゃない。手も足も」。9本飛んだ右翼線へのファウルも痛む両足を引きずりながら必死に追った。

 4月23日ヤクルト戦(神宮)で左手に死球を受けて骨折。復帰へ右手1本でティー打撃を繰り返したが、骨折後初のマシン打撃で心が折れた。患部は腫れ、速球を打つイメージが湧かない。「結果を残せるレベル、今季最初の状態に戻すのは、もう無理」。打撃の求道者らしい決断。引退試合の前には入団時の監督である山本浩二氏にねぎらわれ、涙がにじんだ。

 試合後のセレモニー。「この広島で、そしてカープで、いちずに野球ができたことを誇りに思う。カープは16年ぶりAクラスに入れた。自分がこの中にいないのは非常に悔しいですが、未来のカープが明るいことを願って引退します」。チームメートの手で2度の胴上げ。故障に泣かされ続け、それでも希有(けう)な存在感を示し続けた91年最後のV戦士が、ユニホームを脱いだ。

 ▼広島・松田元オーナー 花束を一つ一つ丁寧に受け取って、視線を球場全体に行き渡らせて、アイツらしい律義なところが出とった。普段の引退試合は涙とか、そういうイメージだが、きょうは逆に見入ってしまった。

 ▼巨人・江藤打撃コーチ(88年ドラフト5位で広島入団。10年間、広島でともにプレー)ケガが多かったけど、本当にようやったな、と言いたい。一緒にやったメンバーでは最後の選手なので寂しさはありますね。当時は若いのは2人しかいなくて、よく飯も食い話もした。よくバットを振っていたな、という印象。センスの塊のような選手があれだけ努力したら、多少のケガがあっても誰もかなわないよなと思います。

 ▼広島・前田健(花束贈呈で涙)やっぱり引退は寂しい。前田さんには「ケガをするな。ケガに気を付けろ」と言われた。前田さんから言われると重みがある。

 ▼中日・荒木(熊本工の先輩・前田智に花束贈呈)ウルッときました。「すぐケガするので、休みなしでリハビリしてください」と言っていただきました。

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