【内田雅也の追球】「童心」で見る夢の続き

[ 2026年5月6日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3―7中日 ( 2026年5月5日    バンテリンD )

<中・神(8)>初回、森下のソロを喜ぶレフトスタンドの阪神ファンたち
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 阪神は完敗だった。ただ凡戦だったかと言えば、違う気がする。見どころがあったからだ。

 ホームランである。5本のアーチが飛び交った。阪神は森下翔太8号ソロ、前川右京1号ソロ、佐藤輝明9号ソロと3発を放った。

 森下は1回表、先発の左腕・金丸夢斗の内角低めクロスファイアの速球をライナーで左翼席に運んだ。前川は金丸の高めスライダーを右中間席にアーチをかけた。9回表、すでに2―7と5点ビハインドでもスタンドの阪神ファンは席を立たなかった。佐藤輝に打席が回るからだ。すると期待に応えるように、右翼席に放り込んだのだ。

 大歓声だった。むろん劣勢や敗勢のなかでの一発に笑顔などない。だが阪神ファンには笑顔が広がった。特に少年少女の目が輝いていた。

 こどもの日。バンテリンドームナゴヤは今季最多3万6692人の観衆で埋まった。家族連れが目立った。

 「だから僕たちみんな 野球場に連れてって」と日本野球機構(NPB)のオフィシャルソング『Dream Park~野球場へゆこう』が流れる。試合前、どの球場でも流れる。子どもたちが親に球場観戦をせがむ歌詞である。

 「100マイルのストレート 星に届くホームラン」は剛速球に特大弾という、子どもが夢を描くものを歌っている。原点だろう。

 終戦後、焦土の列島に、彗星(すいせい)のように現れた新人・大下弘は1946(昭和21)、47年と連続本塁打王に輝いた。青バットで虹のようなアーチをかけ、赤バットの川上哲治とスターとなった。

 大下は大の子ども好きで知られた。巻紙に筆でしたためた日記『球道徒然草』で「童心」と題し<「大人になると子供と遊ぶのが馬鹿らしくなる」と人は云ふかも知れないが、私はそうは思はない>と記した。<子供心にかへるのが恐しいから云うのだらう(中略)私は其の反対だ、子供の世界に立入って、自分も夢の続きを見たい>

 この原点を忘れたくない。ベーブ・ルースもウィリー・メイズも、今なら大谷翔平も……目に少年のような輝きを宿している。佐藤輝にも森下もそんな目をしている。

 帰り道。ドームを出ると、真正面にオレンジ色の夕日が輝いていた。子どもたちは、あのホームランと夕焼けを忘れないだろう。 =敬称略=
 (編集委員)

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