【トランポリン】江畑幸子さん 1回のミスが命取りのトランポリン メダル候補の森ひかるに“五輪の魔物”

[ 2021年8月1日 09:00 ]

東京五輪第8日 トランポリン女子予選 ( 2021年7月30日    有明体操競技場 )

東京五輪第8日、予選落ちにミックスゾーンで涙を流す森ひかる(撮影・北條 貴史)
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 【メダリストは見た 江畑幸子さん】トランポリン女子の森ひかる(22=金沢学院大ク)は予選の第2演技で中断し、13位に終わった。19年の世界選手権で優勝してメダルを期待されていたが、プレッシャーに押しつぶされて実力を出し切れなかった。同じ22歳の時、12年ロンドン五輪のバレーボール女子で銅メダルを獲得した江畑幸子さん(31)。森の頬を伝った光るものから感じ取ったのは、トランポリンの難しさ、個人競技の厳しさ、五輪の怖さだった。

 会場に登場してきた森選手の第一印象は、明るくて可愛らしい女性。世界女王と言われていても、本当に笑顔が似合っていました。残念な結果に終わり、大粒の涙を流していましたが、できれば輝くような笑顔が見たかったです。

 初めて見たトランポリンは、本当に怖い競技でした。世界から選ばれた16人が出場しているのに、最後まできちんと演技した選手は思ったより少なかった。5年間、この日のために頑張ってきて、たった数分、ほんの一瞬で終わっちゃうんだと思いました。

 森選手は中央で跳ぶのが得意で、安定感が売りの選手と聞いていましたが、予選の第1演技は思っていたよりズレがあったと感じました。少し“やっちゃった”という笑顔を見せていました。第2演技で修正してくれると期待しましたが、途中で終わってしまい、私も悔しい気持ちになりました。

 トランポリンは続けてプレーするため、1回のミスが命取りになります。また、1本目から2本目の間隔が短いために、技術、メンタルの両面で立て直すのがとても難しい。森選手も修正し切れなかったように感じました。

 バレーボールはミスをしてもプレーが止まります。一回一回のプレーがつながっていないので、次までに立て直す時間があります。また、五輪は開会式翌日から、閉会式前日まで試合があります。ロンドン大会の日本は1次リーグでイタリアとロシアに負けて決勝トーナメントに進みましたが、試合が1日おきだったので負けを長く引きずることなく、新しい気持ちで次に臨めました。失敗と敗北から切り替えられるのが、トランポリンとの違いです。

 個人競技の厳しさも感じました。バレーボールは、チームメートら周りで助けてくれる人がたくさんいます。22歳でロンドン五輪に出場した私は、対角のポジションだった木村沙織さんから「2人で助け合って頑張ろうね」とよく声を掛けられました。うれしかったし、心強かったです。森選手も22歳で初めての夢舞台。トランポリンにも選手を支えてくれるスタッフはいますが、一人でさまざまなものと戦っていたと思います。

 一つは“五輪の魔物”ではないでしょうか。世界選手権で優勝し、大会前から金メダルを期待するとメディアに報じられ、森選手の笑顔の裏側にはかなりのプレッシャーがかかっていたはずです。「(代表を)やめたい」とコーチに相談したと話していたのは、意外でした。私も「練習に行きたくない」「今日は嫌だな」と思った時はありましたが、誰かに話すほどではありませんでした。コロナの影響もあって、いろいろなことを乗り越えて東京五輪まで来ていたのでしょう。

 ロンドン五輪の前、日本も苦しい時期がありました。5月の最終予選で韓国に負けるなど、最終戦まで出場権を獲得できませんでした。そのセルビア戦も負けましたが、2セットを取ってぎりぎりチケットをつかみ取りました。“五輪に出場するために、こんなに大変な思いをするんだ”と痛感しました。

 ただ、本番ではバレーボールはメダル候補と言われていなかったので、私はいい意味で伸び伸びと力を発揮できました。トランポリンでは、宇山選手がそうだったと思います。森選手が金メダル候補として注目される中で、宇山選手は自分のできる演技を落ち着いて披露していました。しっかり五輪に照準を合わせた結果が、5位入賞につながったと思います。

 森選手は金沢学院大に在学中で、宇山選手は卒業生ですよね。私が現役の最後にプレーしたVリーグ女子1部の「PFU」は石川県のチームで、金沢は大好きです。「ひがし茶屋街」の町並みは美しいですし、魚がおいしくて、回転寿司なら「もりもり寿し」です。2人とお会いできたら、“金沢トーク”で盛り上がりたいと思います。

 ◇江畑 幸子(えばた・ゆきこ)1989年(平元)11月7日生まれ、秋田市出身の31歳。両親の勧めで小3からバレーを始めた。聖霊女短大付高では主将兼絶対エース。国体では3位に入ったが、インターハイ、春高は序盤で敗退。08年に日立入り。日本代表では得点源を担い、12年ロンドン五輪で銅メダル獲得に貢献。今年3月に現役を引退。現在はバレーボール普及のため、メディア出演や試合解説を行っている。

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