体は小さくてもチームへの貢献度は大 大事なものはサイズでは表せない

[ 2016年10月6日 10:09 ]

アストロズのアルテューベ(AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】大リーグのア・リーグで首位打者となったのはアストロズのホセ・アルテューベ二塁手(26)だった。打率は・338で2年ぶり2度目のタイトル。アベレージだけでなく24本塁打、108打点、30盗塁をマークしており、文句のつけようがない好成績だった。しかも3年連続で最多安打を記録し、盗塁王も過去2回。ベネズエラ出身でメジャーは6年目だが、すでにスター選手としての地位をゆるぎないものにしている。

 そのアルテューベの身長は1メートル68。メジャーでもとりわけ小柄な部類に入る選手だ。もしサイズだけで判断すると彼には現在の“仕事場”はなかったかもしれない。しかし北米4大スポーツの中にはサイズよりも「彼は何ができる?」という視点で選手を見つめる特有のアングルがある。サイズはあくまで最後についてくる付帯的な数字であるケースが多い。

 かつてNFLカウボーイズのスカウトが来日したとき「彼は使える。いいラインバッカー(LB)もしくはランニングバック(RB)になれるはずだ」とテレビを見ながら語ったことがある。画面に映っていたのは大相撲の横綱・千代の富士。土俵では小さく見えたはずだが、スカウトの目に映っていたのは数字に表せない部分だった。

 今季のNFLで開幕3連勝を飾っているイーグルスにはダレン・スプロールズ(33)というベテランがいる。登録はRBだが、場面によってレシーバーやリターナーとしても登場する。スプロールズの身長はアルテューベと同じ1メートル68。しかしその小ささが、わずかな隙間をすり抜けていくアドバンテージを生み出している。言い方を変えるとスプロールは小さいからこそ、チームにとって重要な存在になっている選手なのだ。

 NFLより身長の高い選手がぞろぞろいるというイメージを持たれがちなNBAにも、かつてマグジー・ボーグズ(元ホーネッツほか)というガードがいた。身長は歴代最小の1メートル60で体重は62キロ。もはや日本の中学生と変わらない。しかし彼は抜群のスタミナとボール・ハンドリング、そしてディフェンスのスペシャリストとして活躍した。大柄な選手の背後にいると相手は気がつきにくい。だからボーグスは時折、自分がマークしている選手から離れ、ローポストやスクリーンに立っている相手選手の背後からボールをスティールしていた。まさに忍者ディフェンス。「視界から消える自分」をコート上で最大限に生かしていたのだ。

 現役選手の中にも昨季の球宴に出場したセルティクスのアイゼイア・トーマス(27)という小柄なガードがいる。ボーグスほど小さくはないが、リーグの平均身長が2メートル2であるのに対し、トーマスは1メートル75。それでいて平均22・2得点を稼ぎ出すチームのトップ・スコアラーでもある。

 さてこのような“ミニサイズ”のスター選手に共通することがひとつある。それはとてつもなく多くの練習量を、多くの人に知られることなく黙々とこなしていることだ。努力の誇示は不要。プロならば結果にこだわるという姿勢が常にそこにある。

 「自分は小さいから無理です」。そう思うのは自由だ。しかし世の中には「自分は小さいけれどこれならばできます」と胸を張れるまで汗を流す人もいる。肝心なのはサイズではなく何ができるのか…。スポーツ選手の夢が夢のままで終わるか、それとも実現に向かうのかはそこが分岐点。そう思いませんか?日本のいたるところにいる平均身長未満の皆さん!(専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

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