×

日本で学んだ「我慢」でワンジルが金

[ 2008年8月25日 06:00 ]

男子マラソンで優勝したワンジル

 【北京五輪 マラソン】日本育ちのケニア人が母国にマラソン初の金メダルをもたらした。トヨタ自動車九州に所属していたサムエル・ワンジル(21)が2時間6分32秒で優勝。84年ロサンゼルス大会のカルロス・ロペス(ポルトガル)のタイムを2分49秒も更新する、驚異的な五輪新記録をマークした。

【競技日程


 強い日差しの降り注ぐ“鳥の巣”に、1人涼しい顔で入ってきた。ワンジルは両手を広げ、誇らしげに人さし指を突き出してゴール。「いい気持ち。3度目のマラソンで金メダルは凄い」。ケニアに初の金メダルをもたらした21歳は流ちょうな日本語で喜んだ。
 驚異的な2時間6分台だった。午前7時半のスタート時の気温が24度。終盤は30度まで上がる猛暑の中、序盤から集団の先頭でレースをつくった。「ずっと引っ張っていこうと思っていた。ゆっくり走ると暑くて余計に疲れてしまう」。最初の5キロがいきなり14分台。10~15キロは15分台に落ちたが、15~20キロは再び14分台とペースを激しく変えて後続を振り落とした。25キロまでは世界記録を上回るペース。35キロの給水で水を取り損ねたが、友人でもあるケベデ(エチオピア)に水を譲ってもらい難を逃れた。37キロ手前で飛び出すとあとは独り旅。真夏のレースは「記録より勝負」というマラソン界の常識を覆すタイムを叩き出した。
 02年、スカウトの目に留まって仙台育英に“陸上留学”。日本流の猛練習に戸惑いながらも、全国高校駅伝で連覇に貢献した。卒業後は92年バルセロナ五輪銀メダルの森下広一監督の指導を受けるためトヨタ自動車九州入りし、ハーフマラソンで世界記録をマーク。さらに、森下監督直伝の粘り強い走りを身に付け、この日も最後のスパートに生かした。「日本で学んだのは我慢、我慢。きょうは我慢できたと思う。森下さんに“銀じゃなく金を見せてくれ”と言われていた」。マラソン専念を希望して7月末、一方的にトヨタ自動車九州に退社届を送りつけたことが問題となっているが、日本への恩は忘れたことはない。
 今後はケニアに一時帰国し、キバキ大統領に会う予定。次に狙うのは“皇帝”ゲブレシラシエ(エチオピア)が持つ世界記録の2時間4分26分だ。「(来年9月の)ベルリンで2時間3分台の世界記録を狙いたい」。日本育ちのケニア人は“皇帝超え”を誓った。

続きを表示

2008年8月25日のニュース