「外れ馬券は必要経費」画期的司法判断、元会社員の脱税額を減額

[ 2013年5月24日 06:00 ]

 競馬の払戻金を申告せず、3年で5億7000万円を脱税したとして所得税法違反に問われた元会社員の男性(39)の判決で大阪地裁は23日、検察側の主張を退け、脱税額を5200万円に減額した。外れ馬券の経費算入についての初の司法判断として注目を集めていたが、営利を目的として馬券を継続的、恒常的に買い続けた場合“外れ馬券も必要経費になる”と認定された。

 「外れ馬券は必要経費」。“条件付き”とはいえ、画期的な司法判断が下された。

 これまで競馬の払戻金は、所得税法に関する国の通達により「一時所得」とされ、経費は当たり馬券の購入費のみとされていた。この日、西田真基裁判長は「営利を目的として馬券を継続的、恒常的に買い続けた場合、外れ馬券の購入費も必要経費になる」との判断を提示。元会社員の男性の馬券購入について、FX(外国為替証拠金取引)や先物取引との共通点をあげて「雑所得」と指摘し、「娯楽性はなく、資産運用の一種である」と認定した。

 ただ、一般的な馬券購入については「楽しみ、消費の性質があり、払戻金は一時所得」と先例を踏まえた。つまり、一般の競馬ファンが手にする払戻金に関しては、外れ馬券は経費として認められないままとなった。

 元会社員は、独自に再設定できるJRA競馬対象の市販競馬ソフトを使用。回収率に注目して約40のファクターを得点化し、買い目を選定して指定のレースを自動的に購入できるように設定した。07~09年、新馬・障害レース以外の、ほぼ全てのレースで合計約28億7000万円分の馬券をA―PAT(インターネット投票)で購入。約30億1000万円の払戻金を得ていた。

 検察側は従来の国の通達を踏襲し、「所得は的中馬券代1億3000万円だけを差し引いた28億8000万円」と主張。「5億7000万円の脱税」としたが、裁判長は「被告人の馬券購入は機械的、網羅的。外れ馬券の購入費も投下資本である」として、払戻金から外れ馬券を含む購入額と諸経費を引いた約1億4000万円を雑所得に認定。課税額を5200万円に減額した。元会社員は既に約7000万円を納付している。

 この日、所得税法違反(単純無申告)で懲役2月、執行猶予2年(求刑懲役1年)の判決を受けたが、元会社員は「経費について主張を認めていただいたので感謝している」とコメントし、控訴はしない方針。弁護を担当した中村和洋弁護士は判決後の記者会見で「こちらの主張が全面的に受け入れられ、実質的に勝訴と考えている」と語った。加えて「これは個人的見解」と断った上で、「これまで馬券払戻金の課税額はほとんどないのだから、政策的には非課税にしても問題ないはず。むしろ競馬ファンは安心するのでは。制度をきっちりと整えるべき」と話した。

 ▽一時所得と雑所得 所得税法は会社勤めといった継続的行為から得たものではない偶発的なもうけを「一時所得」と規定。国税庁通達によると競馬や競輪の払戻金や懸賞金が該当する。課税の基になる金額は、総収入から「収入を生じた行為をするために直接要した金額」と特別控除50万円を差し引いて計算。「雑所得」は公的年金や副業としての原稿料のほか、FXや先物取引の利益など。税額は必要経費を差し引いた上で、給料などの所得と合算した金額を基に計算する。

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2013年5月24日のニュース