サゲの工夫で乙な「三枚起請」を満喫

[ 2023年11月21日 17:15 ]

笑顔を見せる桂三木助
Photo By スポニチ

 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】不朽の名作マンガを新聞で復活させて好評いただいているスポニチ「アルチーボ」は現在「昭和元禄落語心中」を読者に届けているが、作品に絡めた読み物「落語と私」に11月に3回にわたって登場頂いたのが五代目桂三木助(39)だ。

 11月15日に東京・内幸町ホールで独演会「五代目の挑戦vol.9」が開催され、堪能した。映画「ゴジラ―1.0」が大ヒット公開中だが、こちらは「三木助+5.0」とでも言いたくなる進化を感じた。
 まずはおなじみ、注目のオープニング映像。「時そば」「野ざらし」「お見立て」「死神」「まんじゅうこわい」などのエッセンスをアニメーションで表現していく趣向だが、6月の「vol.8」と比べてエンディングに一工夫が加わっていた。顔をのぞかせていたのは可愛らしい「ねずみ」だった。

 終了後に高座に現れた三木助は冒頭のトークで「私はミッキー助で…」と笑いを誘い、映像で落語のネタを紹介する趣向は「実は知らず知らずのうちに立川談志師匠から影響を受けているのかも…」と話し始めた。古典の名セリフや名場面を詰め込んだ談志師の「落語チャンチャカチャン」がベースになっているかもしれないという考察だ。

 自分の弟子にもめったに稽古をつけなかった談志師が二つ目に上がる前の三木助には出稽古を許した。「浮世根問」など8つほどを教わったという。そんな関係性もあり、三木助制作の映像に意識しないまま「チャンチャカチャン」が反映されている可能性があることをお客さんに伝えたのだ。「なるほど」と合点したのは筆者だけではなかったろう。

 映像の最後に登場したねずみのイラストは、「実は」というか「案の定」というか、この日の一席目「ねずみ」を暗示させたものだったが、その詳細は後に回すが、遊び心にあふれた楽しい趣向だ。

 トークが終わり、独演会が幕開け。前座の林家たたみが開口一番を務め、次に登場したのが二つ目の金原亭杏寿。「ゲスト2人はビジュアルで選んだ」と三木助も話していたが、故郷の沖縄でスカウトされて芸能界入りし、2012年度のNHK朝のテレビ小説「純と愛」にも出演経験がある注目株だ。その後落語家に転身し、今年2月に二つ目に昇進。声の通りも良く、「牛ほめ」でご機嫌をうかがった。

 その後が三木助の「ねずみ」で、江戸時代初めに活躍したと伝わる彫刻職人、左甚五郎が登場する、おなじみの噺。祖父の三代目三木助が浪曲師の広沢菊春に「加賀の千代」と交換にネタを譲ってもらい落語化した作品といわれている。言ってみれば“家の芸”のようなもので、五代目にとっても自家薬籠中の噺だけに心地よく聴いていられた。

 中入りを挟んで高座にあがったのが三味線漫談の林家あずみ。「林家たい平の一番弟子」という自己紹介はもはや必要がないほどの人気者で、舞台がパッと明るくなる。楽しいおしゃべりと、かっぽれをにぎやかに披露してトリの三木助にバトンを渡した。

 演し物は「三枚起請」だ。調べてみたら、初代三遊亭円右が上方から東京に持ち込んだ噺で、五代目古今亭志ん生や三代目古今亭志ん朝らが得意とした。

 吉原で、年季が明ければ夫婦になることを約束する起請文を交わすことが流行。町内の若者3人が、なじみの遊女から同じ起請文をもらっていたことから展開していく内容。

 「起請文にウソを書くと熊野のカラスが3羽死ぬ」との言い伝えと、高杉晋作の有名な都々逸「三千世界のカラスを殺し ぬしと朝寝がしてみたい」を踏まえたサゲがおなじみだが、三木助はさらに一工夫を加えた。

 だまされた上、それでもまだ自分だけは脈があると信じている男の哀れとおかしみ。それを見事に表現していた。古典をそのまま演じるだけでなく、どんどん自分なりのアレンジを加味して後世につなげてほしい。

 12月6日には豊島区東池袋のHall Mixaで「令和の三木助 芸歴20周年記念公演」を開催。こちらも注目だ。

続きを表示

「美脚」特集記事

「STARTO ENTERTAINMENT」特集記事

2023年11月21日のニュース