「らんまん」最終回 史実と違う展開 「ヒロインへの愛情、礼儀」

[ 2023年9月29日 09:00 ]

連続テレビ小説「らんまん」最終回で寿恵子(浜辺美波)に万太郎(神木隆之介)が図鑑を見せる場面(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】NHK連続テレビ小説「らんまん」の最終回が29日に放送された。

 この作品のチーフ演出を務めた渡邊良雄氏は「万太郎のモデルとなった牧野富太郎さんの妻・壽衛さんの名前に由来する『スエコザサ』を最終週のサブタイトルにしました。『スエコザサ』は史実として富太郎さんが壽衛さんが亡くなった後に命名したものですが、この作品では、生きている寿恵子に万太郎が命名のことを伝えるようにしました」と話す。

 史実では植物図鑑の完成を待たずに夫人は亡くなっているが、最終回では自宅の縁側で寿恵子に万太郎が完成した図鑑を見せるところが描かれた。

 渡邊氏は「万太郎のことを一生懸命に支えてきた寿恵子が図鑑の完成を見ずに亡くなる…。そんな切ない話はありません。長女の園子ちゃんが亡くなった時、万太郎は図鑑を天国の園子ちゃんに届けるという話をしました。それに加えて寿恵子にも届けなくてはいけないというのでは、いくらなんでもかわいそうすぎます。そうしないことが、万太郎を支え続けた寿恵子というヒロインに対する僕らの愛情、礼儀だと思うのです。万太郎は寿恵子に『スエコザサ』のことを伝え、完成した植物図鑑を見せました。2人は互いの気持ちを伝え合いました。そのシーンには時間を割き、1話15分の半分近くの7分程度を費やしました」と説明する。

 一方で、寿恵子の臨終は描かれなかった。

 渡邊氏は「万太郎の母・ヒサ(広末涼子)、祖母・タキ(松坂慶子)が亡くなった時も、死に際の描写をしませんでした。僕らはそういう描写をしないと心に決めてこの作品を作って来たのです。誰かが亡くなるというのは悲しいことですが、そうすることで少なからず希望のようなものを感じていただけるのではないでしょうか。このドラマのテーマの一つは『継承』です。思いや情熱をつないでいくこともそうなのですが、人の死もただそれだけではなく残された人につながれていくということを描きたいと思って来ました」と思いを明かす。

 長い物語がこれで終わった。

 渡邊氏は「槙野万太郎という人物に対してはいろいろな見方ができると思います。自分の好きなことをやるために寿恵子をはじめ周囲の人々に多くの犠牲を払わせています。そのような人物を受け入れられないという方々もいるでしょう。ドラマなので誇張している部分もあります。その誇張した部分に、人間の面白さや可能性、魅力を感じていただけたとしたら、この作品を作って来たかいがあります。僕たちは夢をあきらめることが多いです。やりたい仕事を始めてもうまくいかなくて別の仕事に移る場合もあります。仕事をしていても結婚して子供ができて断念する場合もあります。それが当然というところもあります。しかし、そうではない人がいて、そうではないがゆえに何かを成し遂げる場合もきっとあります。万太郎という人物に、人間が本来持っているポテンシャルが凝縮されていると感じていただけたのなら、うれしいです」と語る。

 個人的には、万太郎が寿恵子に図鑑の完成を伝えた場面で、寿恵子が万太郎に告げた言葉が深く胸に刺さった。

 「私がいなくなったら…。いなくなったら、いつまでも泣いてちゃダメですからね。万太郎さんと草花だけ。草花にまた会いに行ってね。そしたら、私もそこにいますから。草花と一緒に私もそこで待ってますから」

 夏目漱石の短編小説「夢十夜」の「第一夜」のような味わい深い余韻を残す、最終回にふさわしいセリフと芝居、そして、幕の閉じ方だった。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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