「どうする家康」ネット号泣の女大鼠平伏も 随所に“引きの画”演出の狙い シナハンで感じた“残酷さ”も

[ 2023年7月7日 10:30 ]

大河ドラマ「どうする家康」第25話。瀬名と松平信康の処遇について、徳川家康(松本潤)に伝える織田信長(岡田准一・中央)と佐久間信盛(立川談春・右)(C)NHK
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 嵐の松本潤(39)が主演を務めるNHK大河ドラマ「どうする家康」(日曜後8・00)は今月2日、第25回が放送され、前半最大のクライマックス「築山殿事件」「信康事件」(天正7年、1579年)が描かれた。主人公・徳川家康が愛妻・瀬名と愛息・松平信康を同時に失う人生最大の悲劇。戦のない“慈愛の国”を目指し、信念を貫いた2人の最期に、号泣の視聴者が相次いだ。同回を担当したチーフ演出・村橋直樹監督に撮影の舞台裏を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 「リーガル・ハイ」「コンフィデンスマンJP」シリーズなどのヒット作を生み続ける古沢良太氏がオリジナル脚本を手掛ける大河ドラマ62作目。弱小国・三河の主は、いかにして戦国の世を生き抜き、天下統一を成し遂げたのか。江戸幕府初代将軍を単独主役にした大河は1983年「徳川家康」以来、実に40年ぶり。令和版にアップデートした新たな家康像を描く。古沢氏は大河脚本初挑戦。松本は大河初主演となる。

 第25回は「はるかに遠い夢」。武田四郎勝頼(眞栄田郷敦)が暴いた瀬名(有村架純)と松平信康(細田佳央太)の“慈愛の国”計画。それはやがて、織田信長(岡田准一)の知るところとなる。2人の始末をつけなければ、織田と戦になる。それでも徳川家康(松本潤)は信長の目を欺き、妻子を逃がそうと決意。一方、瀬名は五徳(久保史緒里)に「姑は悪女だ」と訴える信長宛の手紙を書かせ、全責任を負う覚悟。岡崎城を出た信康もまた、逃げ延びることを良しとしない…という展開。

 家康は“替え玉作戦”を敢行。しかし、瀬名は身代わりの女を逃した。

 二俣城。信康は「お方様は、無事お逃げになりました」という服部半蔵(山田孝之)の嘘を見抜き、自刃した。

 その十数日前、佐鳴湖畔。家康が「死んではならん。生きてくれ」と直々に説得したが、瀬名は“悪辣な妻”と語り継がれることを厭わず自刃。家族だけで静かに暮らしたいという唯一の“はるかに遠い夢”は叶わなかった。家康は最愛の妻の最期を目の当たりにし、慟哭した。

 第25回の台本の冒頭には「瀬名と信康の、そのすべてを達観した眼差し。微笑み合う2人は、ともに何かを受け入れている」のト書き。第18回「真・三方ヶ原合戦」など時間軸を自在に操るドラマチックな展開が古沢脚本の真骨頂だが、村橋監督は「家康の替え玉作戦はありますが、古沢さんならもうひとヤマ、もうひと波乱あるのかなと予想していたので、最初に台本を読んだ時は、2人が冒頭から死を受け入れていて非常に静かな回だなと感じました。ひたすら最期に向かっていく2人の姿を、静かに撮りたい。そんなイメージがありました」と演出プランを練った。

 “静の筆致”をどう映像に変換したのか。

 「手持ち(のカメラ)で登場人物に近寄っていって撮るのが好きなんですけど、今回は人物から離れた所にドーンと1台、カメラを置いて撮りました。『どうする家康』というぐらいなので、これまでの僕の担当回は家康の背中を追い掛けていったり、家康目線の映像を多く使ったり、いわば“家康主観”の撮り方をしてきましたが、今回は遠くから客観的に家康を眺めている感じ。“この人が見たい!”と手持ちで分け入っていって、その人の心情に寄り添うような撮り方とは物理的な距離も、生理的な距離も違いますよね」

 今作の村橋監督の担当回としては、第25回で初めて採り入れたスタティック(静的)な映像。ひなびた農家に集い、激しい夕立に見舞われた家康&信長&佐久間信盛(立川談春)を捉えた冒頭のシーンに始まり、瀬名を介錯した後の女大鼠(松本まりか)の平伏をのぞき見するようなラストまで随所に、引きの画が残酷なまでに美しい。

 古沢氏とスタッフは2021年5月から約半年、シナリオハンティング(シナハン、脚本作りのための取材)で徳川家康ゆかりの地を訪問。ほぼ全部を網羅した。

 瀬名の終焉の地となった「佐鳴湖」(静岡県浜松市)や瀬名を斬った太刀の血を洗ったと伝えられる「太刀洗の池」の史跡碑(同)は現在住宅街の中にあり、ラストシーンの舞台となった佐鳴湖東岸「小籔船着場跡」はレンタルボート店になっている。

 村橋監督は「何といいますか、瀬名が悲劇的な、ドラマチックな最期を遂げたという感じがあまりしない場所だったんですよね。ただ、逆に心が動いた部分もありました」と振り返り、こう続けた。

 「(愛知県)岡崎(市)にある瀬名の首塚も、市役所近くのお寺(祐伝寺)の一角にポツンとあって。家康公を祀る久能山東照宮(静岡市)の巨大な墓に行った後だと、このドラマにおいては生活を共にし、同じ夢を見た一対の夫婦なのに、後世からすると、全く別の世界を生きた2人かのようだなと。神の君になっていく家康と、夫の背中を押して罪人として去っていく瀬名の隔たりの残酷さといいますか。でも、彼ら個々人にとってはかけがえない存在で、そんな差はなかったかもしれない。シナハンの時に湧いてきた思いを、視聴者の皆さんと共有することができたらいいな、と考えていました」

 ◇村橋 直樹(むらはし・なおき)2010年、中途採用でNHK入局。初赴任地は徳島放送局。13年からドラマ部。演出の1人を務めた18年「透明なゆりかご」(主演・清原果耶)、19年「サギデカ」(主演・木村文乃)が文化庁芸術祭「テレビ・ドラマ部門」大賞に輝いた。大河ドラマに携わるのは14年「軍師官兵衛」(助監督)、17年「おんな城主 直虎」(演出、第28回・第32回を担当)、21年「青天を衝け」(セカンド演出、全41回中9回を担当)に続き4作目。今作は第2回「兎と狼」、第3回「三河平定戦」、第4回「清須でどうする!」、第11回「信玄との密約」、第12回「氏真」、第18回「真・三方ヶ原合戦」、第25回「はるかに遠い夢」を担当している。

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