高岡早紀 舞台「毛皮のヴィーナス」開幕 「何かすごいものを目撃していただける」

[ 2022年8月22日 12:00 ]

舞台「毛皮のヴィーナス」でヴァンダを演じる高岡早紀(提供写真)
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 【牧 元一の孤人焦点】女優で歌手の高岡早紀(49)と俳優の溝端淳平(33)の二人芝居「毛皮のヴィーナス」が20日に東京・三軒茶屋のシアタートラムで開幕した。

 高岡はドラマや映画、音楽、情報番組などで活躍しているが、この舞台で別次元の彩りを見せる。まずは、声。戯曲のオーディションを受けに来た女優・ヴァンダとして発する声が太く力強い。テレビやライブなどで聞くことのない音色だ。一方で、その後に劇中劇を演じる時の声は繊細で上品。一つの舞台で二つの声を使い分ける。

 それから、肢体。ヴァンダは溝端が演じる演出家・トーマスの前で、役に没入するために下着姿のような衣装になるが、生々しく妖艶だ。これもテレビなどでは見られない。この舞台の観客は、全身の見事な均衡を堪能することができる。

 そして、膨大なセリフ。1時間45分ほどの上演中、溝端と2人だけで会話を続けるが、演じる劇中劇は150年以上前の1870年の海外の話だ。日本語のセリフとは言え、それを2022年の今、日本人がよどみなく話すことの困難さが推察される。いったい、これだけのセリフをどのように暗記し、どのように芝居へと昇華させて本番に臨んだのか…。

 この作品の勘所は二重構造だ。一つはヴァンダとトーマスの世界。もう一つは劇中劇の登場人物の世界。登場人物の2人は男女関係の機微や性的嗜好などについて語るが、それがいつしかヴァンダ自身とトーマス自身の話のようになる。最終盤ではヴァンダとトーマスの存在さえ薄れ、高岡と溝端の存在が浮き上がってくるようにも感じる。不可思議な世界だ。

 高岡はヴァンダを演じている。しかし、いつの間にか演技をしているように見えなくなる。口にしているのは暗記したセリフではなく高岡自身の中に元々あった言葉なのではないかと思わせる。芝居を感じさせない芝居。そういうものがそこにある。

 初日を迎えた高岡は「二人芝居で、とても充実した稽古を重ねてきました。大人数の舞台とはまた違った、二人の絆、呼吸が試される舞台。淳平君とはこれまでも共演を重ねてきましたが、彼には『何があっても絶対に大変なことにはならない』という安心感がありますし、一対一で向き合ってきて、よりその信頼感が増しました」と話した。

 さらに「精神的にも体力的にも大変な作品ではありますが、とても楽しいです。まだまだ積み重なっている課題をこなして、淳平君と、より素晴らしい『毛皮のヴィーナス』の世界をお客様にお届けできるよう切磋琢磨していきたいと思います。何かすごいものを目撃していただけると思います」と語った。

 舞台は9月4日まで。既に「何かすごいもの」を見た実感があるが、どうやらまだ進化の途中のようだ。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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2022年8月22日のニュース