大河「麒麟がくる」 光秀が信長に仕える前に覚えた違和感

[ 2020年10月19日 12:00 ]

18日放送のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」で、城の建築現場に運び込まれた石仏を見つめる明智光秀(長谷川博己)(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】18日放送のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」で、明智光秀(長谷川博己)が織田信長(染谷将太)に違和感を覚える場面が描かれた。

 上洛(じょうらく)した信長は将軍・足利義昭(滝藤賢一)の城を築くことを決断。周辺諸国から資材を調達するが、建築に使用できるものは何でも取り寄せる方針から、現場には石仏まで運び込まれる。光秀は石仏を目にして不審そうな表情。ところが、信長は全く意に介さず、こんな昔話を披露する。

 「子供の頃、仏間に忍び込んで遊んでいて、仏をひっくり返したことがある。母上にたいそう、しかられ、『仏さまのばちが当たる』と脅された。仏のばちとはどんなものか興味があり、何日もそのばちを待った。何も起こらなかった」

 この後が強烈だ。信長は、石仏の頭と顔を手でポンポンとたたく。それを目の当たりにした光秀は明らかに違和感を覚えた表情。やがて建築のために割られた石仏の頭部が現場に転がっているのを見ると、さらに違和感を募らせた様子になる。

 演出の大原拓氏は「あの場面が全ての序章だと思っている。いまはまだ一枚岩の信長と義昭の政権が今後どうほころびてゆくのか、信長と光秀の関係が今後どうなってゆくのか、そのスタート地点」と明かす。

 この大河のクライマックスは本能寺の変。その過程として、今後、信長が僧侶らを皆殺しにしたとされる比叡山焼き打ちなどが描かれることになるが、その序曲となる場面だ。

 大原氏は信長が石仏をたたくシーンについて「光秀と視聴者の感覚は一緒だと思う。信長は常識から外れている。これから光秀は信長という、えたいの知れない存在を間近で見ていくことになる。その違和感を共有するため、どう描くか考え、あの場面になった。若くて力のある信長は幕府を立て直すために必要な存在だが、その違和感によって徐々にズレていく」と話す。

 面白く感じるのは、この大河で、まだ光秀が信長の家臣になっていない点だ。18日の放送で光秀は将軍の奉公衆に加えられたが、信長からの誘いに対しては、11日の放送で断ったまま。つまり、光秀は正式に信長に仕える前からすでに信長に対して違和感を覚えていたことになる。

 現代でも、人の好き嫌いだけで働く場所を決めるわけではない。生きていくため、暮らしていくためには、ある程度の打算が必要だ。光秀は、戦国時代に自分が理想とする世の中を具現化するため、どうしても信長の家臣になる必要があると考えるのだろう。

 それは理解できる。そして、同時に、こう思う。違和感を覚えていたのにもかかわらず、そのまま没入し、結果として謀反を起こして果てるのだとすれば、光秀の物語は、やはり、切ない。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。

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