藤井七段、はじめての封じ手 冷静な17歳が署名し忘れ…珍しくバタバタ

[ 2020年7月14日 05:30 ]

封じ手を立会人の深浦九段(左)に手渡す藤井七段(日本将棋連盟提供)
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 木村一基王位(47)に藤井聡太七段(17)が挑む将棋の第61期王位戦7番勝負第2局は13日、札幌市のホテルエミシア札幌で第1日を行い、藤井が40手目でタイトル戦初の「封じ手」を経験し、指し掛け(第1日終了)となった。両者とも初日としては早い仕掛けを見せたが盤面は拮抗(きっこう)状態。対局は14日午前9時に再開する。

 午後6時、立会人から声を掛けられた藤井は、控えに移って指し手を記入した。初々しいシーンは、対局室に戻り、封じ手の入った封筒を木村王位に手渡した瞬間。封をした箇所に赤のサインペンで簡単な署名をしなければならないのに、藤井はすっかり失念。「千駄ケ谷の受け師」に署名が抜けていることを指摘されると、慌てて封筒を手元に引き寄せ「藤井」と書いて「○」で囲む作業にいそしんだ。常に落ち着いている17歳にしては珍しくバタバタの場面。内心は大量の冷や汗を流していたかもしれない。

 前日12日の会見では封じ手について「展開次第ですね」と語っていた。一般棋戦では昨年8月11日のJT杯日本シリーズ1回戦(対三浦弘行九段)以来2度目の経験だが、同棋戦は1日制で、途中に休憩を挟むために設定されている。王位戦の第1局第1日(今月1日)では木村の手番だったため、藤井にとって2日制のタイトル戦では初体験だった。

 対照的に将棋の内容は相変わらず堂々たるものだった。先手番・木村の誘った作戦は飛車先の歩を突き合う「相掛かり」。角換わりに加え、最近は矢倉も指向する藤井には苦手とは言えないまでも過去には苦い思い出もある。3年前の7月2日、デビュー以来の連勝を29で止められた佐々木勇気五段(当時)戦。先手の佐々木に相掛かりを挑まれ、敗れた伝説の一戦だ。今回の木村も、同じく先手。ベテランの放つ渾身(こんしん)の勝負作戦を待ってましたとばかりに受け止める。初日としては異例の1時間25分に及ぶ大長考も披露した。形勢は均衡を保っているものの、藤井サイドは違和感の少ない進行といえるだろう。

 2日制での注意点について「しっかり睡眠をとりたい」と話した藤井。開幕局で疲労感をにじませた遠因は初日終了後の過ごし方だったとの示唆だ。今回は自らの「次の一手」を封書に託して床に就いた。

 《コロナ感染対策 会場内で大盤解説会行われず》新型コロナウイルス感染対策で通常行われている会場内での大盤解説会は行われなかったが、北海道出身の副立会人・野月浩貴八段がウェブ中継で解説を実施した。また札幌市内の日本将棋連盟北海道支部連合会では工藤学会長が道場参加者10数人向けに小規模の解説会を敢行。「木村さんも藤井さんも両方勝ってもらいたいので複雑な心境です」と話した。

 《札幌市内の飲食店でマスターが「ミニ解説会」》14日の夕刻からは札幌市内の飲食店「tabibitoキッチン」で盤を使った「ミニ解説会」がある。進行役は店主の川合将太さん(32)で、「日本将棋連盟すすきの支部長」の肩書を持つ指導員だ。「平日の午後なのでどのくらい集まるかは分からないのですが、壁にプロジェクターで盤面を投影して解説したい」と張り切っている。

 ▽封じ手 第1日の対局を決められた時刻で中断する場合、その日の最後の一手を紙に記入して、封筒に入れて封をする。対局の中断中、相手が次の手を考えられる有利不利が発生しないようにするため行う。将棋の場合は通常2通記入し、1通は立会人、もう1通は対局会場が保管する。この日は3通に記入した。

 ▼王位戦第1局VTR 愛知県豊橋市のホテルアークリッシュ豊橋で7月1、2日に開催。初日、先手・藤井は角換わりから昼休憩を合わせ実質150分の長考。その後も自己最長の96分など、たっぷり時間を使った。2日目は藤井の連続攻撃に、木村が絶妙の受けで対抗。一手誤れば逆転のギリギリの局面が続き、藤井が95手で先勝。

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