求道者であり伝道者 近藤芳正 リモート朗読劇、無観客一人芝居配信…常に前進 ワークショップで後進育成

[ 2020年6月21日 06:30 ]

演技について熱く語り、笑顔を見せる近藤芳正(撮影・会津 智海)
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 【俺の顔】舞台を主戦場に映画、ドラマと幅広く活躍する俳優の近藤芳正(58)。新型コロナウイルスによる自粛期間中も“言い出しっぺ”となってリモートによる朗読劇「12人の優しい日本人を読む会」を生配信するなど積極的だ。舞台のプロデュース、演出も手掛け、ワークショップを開いて後進の育成にも当たる。「演技の勉強をするのが好き」という飽くなき向上心を持って、常に前進を続けている。

 近藤は今月5日、営業を再開した東京・下北沢の本多劇場で無観客による生配信の一人芝居「DISTANCE」に挑戦。だが、これまでとは感触が違ったようだ。

 「ゲネプロの出来があまり良くなかったものですから(本番では)かなり気合が入ったというか、今までにしたことのない集中の仕方をしていたと思います。でも、終わってみるとお客さんに直接感想を聞くこともなく、打ち上げもやっていないので本当にやったのかというくらい記憶が薄くなっているんですよね」

 苦笑いしつつも、今後の舞台の在り方について考えを巡らせる。

 「元に戻すのではなく、新たな舞台エンターテインメントの始まりだと思っています。配信と同時にやっていく劇場もあるだろうし、配信も通信環境によって途切れちゃうこともあるからそこをどう解決していくのか。いろいろと試行錯誤しながら、新しい形を考えていくと思います」

 芝居の原点は中学時代、1年生で児童劇団に入り、3年時にNHK「中学生日記」のオーディションに合格。だが当時、両親の離婚という不運に見舞われる。

 「その頃は突っ張っていたので何とも思っていなかったんですけれど、今思えばつらかったんでしょうね。僕は父親の方に行ったので、家に帰っても仕出しの冷たい弁当しかない。親がいないのをいいことに、よくオールナイトで映画を見に行ってもいたので、学校にいるか映画館にいるか収録をしているかでした。よく頑張ったなと、自分自身を褒めてあげたいです」

 高校卒業後「中学生日記」で先生役だった湯浅実さんの下で1年修業を積み上京。劇団青年座を経て「コント赤信号」の渡辺正行(64)が座長の劇団七曜日に参加したが、雌伏の時が続く。

 「28歳になっても全然食える見通しが立たない。皆に大器晩成だと言われていたけれど、30歳を超えてバイトをやるのかと自分自身に問いかけたらノーだった。それまでは、自分がどういう芝居が好きかということを全く置き忘れたままきていたので、それを一回やめて、いろいろな芝居を見て面白いと思ったら出させてくださいと言いに行くようになったんです」

 その過程で出会ったのが「東京サンシャインボーイズ」の三谷幸喜氏(58)。代表作の一つ「12人の優しい日本人」は再演時に観劇していたが、映画化される際、リハーサルを行うスタジオに見学に行ったところ、決まっていなかったピザの配達員にその場で配役された。これを機にほとんどの作品に客演し、注目されるようになる。同時に、新たな道を模索し始めた。

 「果たしてそこに安穏としていていいのか。もっと違う世界に行くべきじゃないか。自分の考え方、生き方、価値観を変えていかなければダメだと思ったんです」

 苦手だった歌や殺陣に取り組み、自身のプロデュースで劇団「ダンダンブエノ」やソロユニット「バンダ・ラ・コンチャン」を立ち上げ、あらゆる角度から芝居を追求していく。

 「同じ役者さんでも、共演している時の顔と僕がプロデューサーとして接する時の顔は違う。凄く勉強になりましたし、どんな役でもうまい、下手ではなく、演じている近藤に魅力がないと役も面白くならないということにも気づきました」

 さらに、海外のワークショップにオーディションを受けて参加するなど自己研さんを欠かさない。

 「日本では本番で段取り通りにやらないと怒られるけれど、海外では相手との関係性だけなので自分の直感と衝動を信じていいと言われるんです。セリフも間違えて当然、それが人間だからって。それが凄く楽しくて、日本にはあまりにも入ってきていないので、あってもいいのかなと思っています」

 そんな思いも、主宰するワークショップで若手に伝えていく。

 「演出家や映画監督のものは多いですけれど、同じ役者の目線でセリフはどうやって覚えるのか、現場で苦手な人がいた場合にどうするのかということを伝えています。どう受け取るかは自由。伝えたことで、自分もしっかりしないといけないぞという部分もあるし、若い人から刺激をもらうこともいっぱいあります」

 全ての経験を糧にする前向きな姿勢に、ますますの充実一途を予感させた。

 《共演若手に喜び「親戚のおじさんみたい」》近藤は7月11日公開の映画「河童の女」(監督辻野正樹)に出演している。「カメラを止めるな!」などを生み出したENBUゼミナールのシネマプロジェクト最新作で、ワークショップオーディションで選ばれた16人との共演。自身のワークショップに参加した若手もおり「彼らが本当に生き生きとやっているのを見ると、どこか親戚のおじさんみたいに喜んでいるところはありますね。選ばれたメンバーが、自分ができる精いっぱいの範囲でこの映画を盛り上げよう、良くしようというエネルギーが出ていたし、出演できる楽しさ、うれしさが感じられました」と相好を崩した。

 ◆近藤 芳正(こんどう・よしまさ)1961年(昭36)8月13日生まれ、愛知県出身の58歳。76年、NHK「中学生日記」でデビュー。96年、西村雅彦(現・まさ彦)との2人芝居「笑の大学」で読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞。07年、「中学生日記」の30年後を描いた「僕は、ここにいる。~父と子の闘争日記~」に企画から関わり、中学3年生の息子を持つ父親役で出演。15年「野良犬はダンスを踊る」で映画初主演。

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