“手間を惜しまない”堤真一の信念「きっと自分に返ってくる」

[ 2017年1月17日 11:00 ]

夢中論 堤真一(下)

日本テレビドラマ「スーパーサラリーマン左江内氏」を演じる堤真一
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 【夢中論】誰もが認めるトップ俳優の堤真一(52)。時にはエネルギッシュに、時にはとても繊細なタッチでさまざまな役を演じてきた。プライベートでは意外にも細やかな仕事に精を出す。自宅に招いた友人のために前夜から料理を仕込んだり、竹を使って食器を作ったり。仕事でも家庭でも、できるだけ手間ひまをかける性分は堤の信念に根ざしていた。

 自宅に友人を招いての食事会。堤は前夜からキッチンで水炊き鍋のスープ作りにいそしむ。市販のスープの素は使わず、大きな鶏がらや野菜、調味料を圧力鍋でグツグツと煮込む。凝り性な夫に妻も半ばあきれ顔だ。数時間煮込んで骨を取り除き、ザルでこす。少し味見をすると芳醇(ほうじゅん)なうまみが口の中で広がった。手作りの特製白湯(ぱいたん)スープの出来上がりだ。

 「友達が来るというのはイベントみたいなものだから。それなら、一から自分で作ったものを食わせてやろうと思ってね。これが僕のおもてなしなんです」

 プロの料理はうまい。実際、堤もお店に行って「凄いなぁ」と思うことはしょっちゅうだ。けれども「また行こうとはあまり思わない。それより、おふくろのおにぎりの方が何度だって食べたくなるんですよ」と話す。手作りの温かみは誰の心にもきっと届くはず。だから友人をもてなすために一生懸命になる。

 基本的に家の料理は夫人の仕事だが、堤が台所に立つことも多い。

 「台所では集中しないとうまくできないから他のことは考えないんです。俳優の仕事というのは、セリフを覚えたり家で準備することが多くて、家の中で行き詰まることもあるんですが、料理は最高の気分転換。仕事を忘れて没頭していますね」

 最近は料理に加え、家にあるものを再利用して小物作りも始めた。最新作は青魚などを入れる長めの筒状の器。昨年の正月に飾った門松を使い、竹をナタで割り、節を削って仕上げた。

 「さんまを食べていたときに平らな皿より筒状の器のほうがタレがこぼれないな、と思いついたんですよ。何かいい方法はないかな、と考えていたら門松が物置にあったのを思い出して。これを割って食器にしてやろうと思ったんです」

 用途に合うものをすぐに買い求めたりはせず、まずは自分で何とかしようとする。そこから愛着が芽生え、また「何か作ってみよう」と思う。手作りの料理にしても、竹で作った食器にしても、夢中になることができるのは自分の思いを詰め込むことができるからだ。

 この世界に入ったのは、テレビで見た舞台設営やスタントのセッティングをしている仕事が「自分にもできるんじゃないか?」と思ったからだった。高校卒業後に上京して、テレビで見た事務所の門を叩いた。俳優になるとは夢にも思わず「30歳になる前にはやめて、実家でおふくろとたこ焼き屋でもやるか」と考えていた。真田広之(56)の付き人をしたり、劇団の人手不足からヘルプで舞台に立つなど何となく演技の仕事も始めてみたが、元々目指していたわけではない。分からないことばかりの「覚えが悪い役者」だった。

 それでも先輩たちは「しようがねえなぁ」と懇切丁寧に教えてくれた。「みんなが根気よく支えてくれたから続けることができた。僕が人よりできない、面倒くさい役者だったから愛情を注いでくれたんでしょう」と今でも恩に感じている。

 そんな堤だからこそたどり着いた信念がある。

 「僕の勝手なイメージですけど、便利なもので身の回りを固めると、自分も便利な扱いしかされないように思う。でも、普段から手間を惜しまない生活をしていると、それが自分にもきっと返ってくると思うんです」

 生き方と同様に手間ひまかけた演技へのアプローチがリアルを生む。「心理学者のように、演じるキャラクターの行動を探って、納得がいかないと怖くて演技ができない」のが堤流。映画「ALWAYS 三丁目の夕日」(05年)では町工場の社長をエネルギッシュに、「クライマーズ・ハイ」(08年)では航空機事故を追う新聞記者を情感たっぷりに演じた。現在公開中の「土竜の唄 香港狂騒曲」でも暴力団の切れ者の若頭役を怪演。いずれも高く評価されて、過去に数え切れないほどの賞を獲得してきた。

 14日から始まったドラマ「スーパーサラリーマン左江内氏」ではコミカルな堤が見られる。お世辞にもカッコいいとは言えないコスチューム姿。それを脱ぐと家では家族にバカにされるお父さんだ。

 「でも、左江内には家族を守るというブレない気持ちがある。そこが伝わればうれしいかな」

 プライベートでも家族思いで、最近テントを購入した。今年4歳になる長女に「自然と触れる機会を与えてあげたい」と思ったからだ。

 「子供は手間がかかるし思った通りにいかないけど、だからこそいとおしい」

 柔らかな笑顔を浮かべながら思いを巡らせたのは、これから生涯をかけて手間をかけたい存在だった。

 ◆堤 真一(つつみ・しんいち)1964年(昭39)7月7日、兵庫県西宮市生まれの52歳。85年の舞台「天守物語」出演を機に本格的に役者業を目指す。96年フジテレビの月9ドラマ「ピュア」でブレーク。舞台、映画、ドラマでジャンルを問わずに活躍。13年3月に一般女性と結婚。同年10月に第1子の女児が生まれる。1メートル78。血液型AB。

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