渡辺淳一さん死去 「失楽園」「鈍感力」流行語生み出す

[ 2014年5月6日 05:30 ]

08年年9月に出版した医学本「あきらめるのはまだ早い」についてインタビューに答える渡辺淳一氏

 「失楽園」など男女の濃密な性愛を描いた恋愛小説で知られる直木賞作家の渡辺淳一(わたなべ・じゅんいち)さんが先月30日午後11時42分、前立腺がんのため、都内の自宅で死去していたことが5日、分かった。80歳。北海道出身。故人の意向で葬儀・告別式は同日、近親者で済ませた。喪主は妻敏子(としこ)さん。後日お別れの会を開く。「渡辺作品」に出演した俳優陣らも、突然の死を悔やんだ。

 4年ほど前に前立腺がんを患い、自宅で療養を続けながら作品を発表していた渡辺さん。

 関係者によると、昨年末までは肉を食べ、飲酒したりと高齢を感じさせないほど食欲も旺盛で、精力的に執筆活動を続けていた。ところが今年に入って体調を崩してから体力が落ち、次第に食も細くなっていった。

 仕事に対して厳しさを見せる一方、担当編集者たちへの気遣いはいつも忘れなかった。「愛と性の巨匠」として、子供ほど年の離れた担当者の恋愛相談に乗ったこともあった。父親の手術当日に、直接電話をもらった人もいた。医師経験があった渡辺さんならではの行動だった。

 札幌医大在学中から同人誌で小説を発表。卒業後、札幌医大の講師をしていたが、和田寿郎教授による心臓移植事件を批判したことがきっかけで辞職した。専業作家を目指して上京し、事件を題材にした「小説心臓移植」(後に「白い宴」)を発表して話題となった。

 医療小説を多く手掛け、1970年に「光と影」で直木賞。80年には野口英世の人生を描いた「遠き落日」と「長崎ロシア遊女館」で吉川英治文学賞を受賞した。

 80年代からは愛と性を正面から描いた「化粧」「ひとひらの雪」「化身」などの恋愛小説を立て続けに刊行。中年男女の不倫をテーマにした「失楽園」は大胆な性描写で話題となり、250万部を超す大ベストセラーになった。「失楽園」は1997年の新語・流行語大賞にも選ばれ、黒木瞳(53)、川島なお美(53)主演でそれぞれ映画、テレビドラマ化され大ヒットした。

 恋愛や生き方を指南するエッセーも人気で、「鈍感力」は07年の新語・流行語大賞トップテンに入賞し、授賞式では「2度も頂けて本当にラッキーです」と笑顔を見せた。

 晩年のインタビューでは「人を好きになるというのは、単にきれいだとか金持ちだとかの問題ではない。理屈で説明できないのが愛やエロスであって、好きになっていく過程の非論理こそが最も文学的」と、自身の作品について説明。“愛と性の巨匠”らしく「小説は説明するものじゃなくて、感じてもらうものなんだ」と訴えていた。

 渡辺 淳一(わたなべ・じゅんいち)1933年(昭8)10月24日、北海道生まれ。札幌医大医学部卒。医学博士。2003年に紫綬褒章と菊池寛賞。直木賞や吉川英治文学賞などの選考委員を務めた。

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