再生ピアノ クミコのコンサートで希望の音色響かせる

[ 2011年9月11日 10:00 ]

再生したピアノの調律を見守る井上晃雄さん(奥)

 東日本大震災は11日、発生から半年を迎えた。被災地では慰霊祭などが予定され、犠牲者冥福を祈る。宮城県石巻市では、津波で浸水した老舗楽器店が、壊れたピアノを4カ月がかりで修復。震災前のように戻った美しい音色は、11日、同市で開かれる歌手クミコ(56)の無料コンサートで披露される。

 この楽器店は石巻市中心部にある1921年(大10)創業の「サルコヤ」。津波で1階が水没し、展示していた約30台のピアノが海水や泥水をかぶり、音が出なくなった。

 「捨てるしかない」。従業員からの声も出る中、社長の井上晃雄さん(82)は「心血注いで手に入れたピアノ。捨てるなんてもったいない。泥になんか負けられない。一生かけて直す」と、被害が小さかった20台の修繕を決意した。

 作業に着手したのは4月下旬。井上さんや10人以上のボランティアが、さびた計1000本以上のネジの一つ一つを磨き、弦を張り替えた。泥は高圧洗浄機を使って丹念に洗い落とした。

 4カ月かけて1台目の修理を終えた。ヤマハ製グランドピアノ。本来の価格は、津波で関係書類などが流されてしまって分からないという。

 この取り組みをクミコはツイッターで知った。公演のため3月11日に石巻市滞在中に被災し、6月に再び同市を訪れた際に井上さんの店を訪問。「120歳まで生きて全部のピアノを直す」という熱意に心動かされ、その場で再生ピアノを使ったコンサートを提案、きょう11日の開催を約束した。

 これ以降、井上さんは急ピッチで進め、知り合いの調律師に助言を求めるなどして、今月3日のリハーサルに間に合わせた。ただドミソの和音、ファシレの和音が出にくく、1週間かけて再調整。調律できたといい、井上さんは「(試しに)ボランティアの学生にショパンを弾いてもらった時は泣きそうになりました。本番が楽しみ」。

 公演名は「再生ピアノで唄う心の復興コンサート~一歩だけ前へ…」。市立湊小学校の体育館に約300人を無料招待して行われる。

 井上さんは「ピアノは子供たちに夢を与える存在。直したものは売らずに店に置いて、自由に弾いてもらいたい」と話す。復興の象徴の一つとして、子供たちに、いつまでも希望の調べを弾き継いでもらうことを願っている。

≪「成功させねば」≫クミコは半年前、石巻文化会館でリハーサル中に震災に遭い、会館の裏山に避難。車の中で逃げてきた人たちと一緒に一晩を明かした。震災後はショックでしばらく歌えない状態が続いたが、5月25日に新曲「最後の恋~哀しみのソレアード」を発売。翌6月11日に石巻市で、500人以上の被災者を前に歌声を披露し“再出発”した。きょうの公演についてはブログに「このピアノの再生は石巻の再生だと私は思う」「ぜったい成功させねば」などと記している。

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