[ 2010年10月9日 06:00 ]

☆あらすじ&聴きどころ

【前奏】
 53小節からなる短い前奏。冒頭、ヴァイオリンが奏する美しい旋律は「アイーダ愛の動機」。続いてチェロが下降音型による「権力の動機」をピアノ(弱く)で奏でる。それらが次第に力を増し、互いに絡み合っていく。このオペラで縦糸と横糸を織り成す「愛」と「権力」または「政治」という2大テーマがライトモティーフのような手法で効果的に提示される。両者の対立がひとつの頂点を形成したところで音楽は急速に勢いを失い消え入るように第1幕へとつながる。このオペラの全体像をコンパクトな中にも的確に暗示した珠玉の前奏となっている。
【第1幕】 
<第1場> 古代エジプトの首都メンフィスにあるファラオの宮殿
エチオピア軍がエジプトに迫るとの噂が広まっている。祭司長ランフィスはイシスの神からエチオピア征討軍の総司令官指名の神託を受けたと語り、立ち去る。その言葉に若き将軍ラダメスは、もし自分が任命されたらエチオピア軍を打ち破り、手柄として恋人アイーダに勝利を捧げ結婚の許しを得るのだと、ロマンツァ「清きアイーダ」を歌う。ここでは物語と音楽の連続性を重視し従来のアリアの手法を取らずにロマンツァとしている。アイーダは王女アムネリスに仕える奴隷だが、その実はエジプトの仇敵であるエチオピアの王女であった。このため、その素性を隠していたのだ。そこへヴァイオリンによる「ラダメスへの愛の動機」にのってアムネリスが現われる。彼女もまた、ラダメスに密かに心を寄せていた。ラダメスの様子とそこに現れたアイーダを恋敵だと直感し、激しい嫉妬にかられる。オーケストラは「嫉妬の動機」を執拗に繰り返す。嫉妬の炎を燃やすアムネリス、困惑するラダメス、不幸な恋の行方を危惧するアイーダ、3人がそれぞれの思いを語る三重唱「いらっしゃい、もっとこちらへ」が歌われる。
エジプト国王が兵士や家臣を従えて登場。使者の報告を聞いた上で、神託に従いラダメスを総司令官に任命する。王はラダメスに「勝って帰れ」と激励、アムネリスはじめ、その場の全員が加わり、大合唱となる。思わず「勝って帰れ」という言葉に唱和してしまったアイーダ。皆が立ち去った後、1人残った彼女は父であるエチオピア王と恋人であるエジプト軍総司令官のラダメスが戦うという運命を嘆き、神に救済を求める。この独白もアリアの形式を踏襲せずに状況に応じて音楽をより弾力的に変化させられる「シェーナ」という手法で書かれているのが特徴。
<第2場>火の神の神殿
勝利を祈る儀式が行われている。ハープの伴奏に乗って巫女たちが神秘的な歌を歌い、神官たちの祈りが響く。祭司長ランフィスは総司令官の印である聖なる剣と冠をラダメスに授ける。ランフィスとラダメスはエジプトの勝利を祈願し、それに神官や巫女たちも加わって力強いアンサンブルが展開され、幕を閉じる。

【第2幕】
<第1場> テーベの宮殿内、アムネリスの寝室。
エジプト軍勝利の一報が入り、アムネリスは侍女たちに取り巻かれ、着飾って祝宴に向かう支度をしている。そこへ「アイーダ愛の動機」とともに祖国の敗戦に暗い表情のアイーダが登場。アムネリスはアイーダの本心を探ろうと、侍女たちを外させ、「ラダメスが戦死した」と嘘を言う。アイーダの激しく動揺する様子にアムネリスは自分の勘が当たっていたことを確信。「死んだというのは嘘だ」と語気鋭く明かす。「奴隷の身で王女たる自分と争うとは僭越」と威圧的にラダメスをあきらめるように迫るアムネリス。アイーダも思わず「自分だって王女」と口走りそうになる。イタリア・オペラでは珍しい女声同士による対決の二重唱。新境地開拓へのヴェルディの意欲が感じられる緊迫した名場面だ。我を取り戻したアイーダはアムネリスに許しを乞うが、彼女は無視。遠くから、ラダメス率いるエジプト軍の凱旋を祝う声が聞こえ、アムネリスは戦勝祝賀式典で自分の権威をいかなるものかを見せ付けてやると捨て台詞を残し立ち去る。残ったアイーダは「勝ってなど帰れ」と同じ旋律に乗せて神に救済を祈る。
<第2場 >テーベに通じる凱旋門前の広場
舞台裏からこのオペラのために考案された、いわゆる「アイーダ・トランペット」による「凱旋の動機」が高らかに鳴る。続いて有名な「凱旋行進曲」に乗って軍勢を率いて帰還したラダメスが群衆の歓呼に迎え入れられる。この間、勝利を祝い神に感謝する合唱やバレエなどによって一大スペクタクルが展開される。あらゆるオペラの中でも最も華やかなシーン。王に褒美は何がいいかと問われたラダメスは捕虜の釈放を願い出る。国王の許しで捕虜たちが連行されてくるとアイーダはその中に父であるエチオピア王アモナズロの姿を見つけて驚く。駆け寄るアイーダにアモナズロは「身分を明かすな」と耳打ちし、周囲には「アイーダの父」とだけ名乗る。ランフィスと神官たちは捕虜たちの助命に激しく反対。しかし、王は戦功あるラダメスの願いを聞き入れ、アモナズロ以外の捕虜の釈放を命じる。また、ラダメスにはアムネリスとの婚約を宣言し次の国王に指名する。アムネリスは歓喜し、一方のアイーダは絶望。復讐の戦を誓うアモナズロの歌声の上に、エジプトの栄光を讃える大合唱が響く壮大なアンサンブル・フィナーレが繰り広げられる。

【第3幕】夜のナイル川のほとり
ラダメスとの結婚式を翌日に控えたアムネリスが舟でイシスの神殿に到着。婚礼の祈りを捧げるためにランフィスに導かれて、神殿に入って行く。そこに不安を表現した低弦による半音進行の音型が絡んだ「愛の動機」とともにアイーダが現われる。彼女はラダメスを待つ間に、木管楽器が効果的な伴奏を織り成すロマンツァ「私のふるさとよ」を歌い、祖国に思いを馳せる。父アモナズロが不意に現れて、ラダメスからエジプト軍の作戦を聞き出すようアイーダに命じる。アイーダはラダメスを裏切ることは出来ないと拒むが、アモナズロも引かない。「お前はエジプトの奴隷だ」と娘を罵倒するオモナズロ。そこにティンパニーの低音に伴われるようにラダメスがやって来たので、アモナズロは身を隠す。アイーダはアムネリスとの婚礼のことを持ち出して冷たい態度を取ると、ラダメスはアイーダへの愛を訴える。オーケストラが「嫉妬の動機」を演奏、エジプトにいる限り、2人はアムネリスの呪縛やさまざまなしがらみから逃れられないことが暗示される。そこでアイーダが一緒にエジプトから逃げて欲しいと持ちかけると、ラダメスも応じる。アイーダが逃げるためにはエジプト軍を避けなければならないからと、行軍ルートを言葉巧みに聞くと、ラダメスは「ナパダの谷」と答えてしまう。それを聞いたアモナズロが飛び出してきたので、ラダメスは国家の機密を洩らしてしまった自らの軽率さを悔やむ。そこにアムネリスとランフィス、祭司たちが神殿から戻ってくる。ラダメスはアモナズロとアイーダを逃がし、「祭司よ、私はあなたのもとに残ります」と高音(オクターブ上のA)で絶叫し自ら投降する。

【第4幕 】
<第1場> 王宮の一室
第1幕第1場の三重唱の旋律を基にしたオーケストラの短い前奏。アムネリスはラダメスを何としても助けようと決意。その思いを長いアリオーソで表現する。そこへラダメスが衛兵に連行されて来る。彼女はエチオピア軍の再起は鎮圧され、アモナズロは戦死したがアイーダは行方不明のままであると彼に告げる。そして、ラダメスがアイーダを諦めて自分を愛してくれるならば、罪一等を許す、ともちかける。ところが、ラダメスは「祖国と名誉を失った恥辱にまみれて生き延びるつもりはない」とその申し出を拒絶し宗教裁判へと向かう。オーケストラは不気味な調子で「権力の動機」を繰り返す中、裁判が開廷。申し開きを求める宗教裁判官たちに対して沈黙を守るラダメス。その様子にアムネリスは神に救いを求める。結局、一切の弁明を拒否したラダメスに対して神殿地下の石室に生き埋めにする刑の判決が下される。アムネリスは裁判官たちに減刑を乞うが彼らは「(ラダメスは)裏切り者」とだけ答え、王女の必死の嘆願も寄せ付けない。アムネリスは宗教裁判官たちを呪う。
<第2場 >神殿とその地下の石室
ラダメスが地下牢に生き埋めにされた。彼がアイーダのことを思い、その無事を念じていると石室の暗闇の中からアイーダが姿を現す。彼女は判決を予想してここに潜んでいたのだ。2人は現世の苦しみに別れを告げ、天国で結ばれることを喜び、安らかに息絶えて行く。地上の神殿ではアムネリスが巫女とともにラダメスの冥福を静かに祈って、幕となる。

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