【内田雅也の追球】歴史を紡ぎ、伝統を引き継ぐ。

[ 2023年11月26日 08:00 ]

阪神OB総会で表彰された中野(撮影・後藤 正志)
Photo By スポニチ

 吉田義男は「ちょっと会いたいんや」と宴会場で、中野拓夢に歩み寄った。25日、大阪・福島のホテル阪神大阪で行われた第48回阪神タイガースOB会総会・懇親会での一コマである。

 吉田は「手を見せてくれるかな」と頼み、中野の手を眺めると「ほー」と感心していた。「小さい手なのでびっくりしました。あの手でよくあれだけのプレーができたもんや。すごいなあ」

 現役時代、遊撃手として「今牛若丸」と呼ばれた名手である。今季、遊撃手から二塁手に転向しゴールデングラブ賞を獲得した中野に興味があった。自分と同様、小さな体でグラウンドを飛びはねる姿を自身と重ねていたのか。「けがなくがんばれよ」と励ました。

 吉田は近本光司にも会って「もっと大きいと思っていました。さほど上背はありませんでした」と言った。近本も中野も身長1メートル71。吉田は1メートル65だった。「なかなか、今の選手たちと近くで話す機会がありませんからね。今日は良かった」

 今年7月に90歳の卒寿を迎えた吉田は満足そうに笑っていた。

 新たに選手会長に就いた中野は「日本一という報告ができ、OBの方々に喜んでいただいた。来年も優勝して、いい報告をしたい」と話した。

 こうした先輩―後輩、OB―現役の交流で伝統が築かれる。大事なことだ。特に阪神のような老舗球団はいかに新たな歴史を紡ぎ、伝統を継承するかがテーマとなる。

 コロナ禍で懇親会は4年ぶりの開催だった。優勝、日本一となったこともあり盛況だった。選手OBに、元球団役職員など約230人が集った。いわゆる暗黒時代を過ごした者も多い。OB会長・川藤幸三は「先人、先輩の歴史があって今がある、ということをわかってほしい」と、風雪に耐えてきた日々を思った。

 田淵幸一(本紙評論家)は「たくさん集まるのはいいことだね。OB同士、OBと現場との交流もはかれる」と話した。

 吉田は「懐かしい顔にも会えました。ええ会でした。思い出に残ります」と喜んでいた。「こうしてOB会が盛況になるためには、やはり母体となるチームが勝つことが大事なんですな」

 昔のようなチーム内、OB間の派閥争いも今はない。監督・岡田彰布へ功労賞の盾を手渡した吉田は「世代交代を進め、黄金時代を築いてほしい」と期待を込めた。 =敬称略= (編集委員)

続きを表示

「始球式」特集記事

「落合博満」特集記事

2023年11月26日のニュース