【内田雅也の追球】五月蝿い走者 投手の気を散らして味方の快打を狙わせる

[ 2022年5月1日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神10ー3巨人 ( 2022年4月30日    東京D )

<巨・神>4回無死一塁、中野は二盗を決める(撮影・平嶋 理子)
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 5回終了時、東京ドーム喫煙所でオリックス編成部チーフプロスカウトの宮田隆に会った。2安打1点と阪神打線が苦しんでいた巨人先発マット・シューメーカーについて「走者が出れば……」という話になった。宮田は「クイックでは1球だけ。ほとんど投げないからね」と話していた。

 確かに1球だけだった。左足を大きく上げ、大リーグで言うスライドステップ(すり足)のクイック投法をしない。

 新外国人投手とあって、記者席でストップウオッチを出して走者一塁時の投球タイム(投球始動―捕手捕球)を計っていた。1秒21が1球あったが残りは1秒30を超えていた。十分に二盗できるタイムだ。

 4回表の1点は走者が揺さぶった成果だった。四球で出た近本光司と中野拓夢でヒットエンドラン(いや二盗とのランエンドヒットか)が決まり、二塁強襲安打で無死一、三塁。この間、中野に6球投げたが、けん制球は1球もなかった。苦手なのかもしれない。中野二盗時に捕手の悪送球があって近本が生還した。

 中野が二塁走者になると、シューメーカーは2度、プレートを外して走者を見やるなど、いら立つようなしぐさも見せていた。これが攻略のヒントになった。

 宮田と話した直後の6回表、同点としたのも走者の功労だ。2死後、中野が中前打し二盗。タイムは1秒45で余裕でセーフだった。再び中野が二塁走者となり、打者への集中力をそいだか。佐藤輝明が高め直球を左前に適時打したのだった。

 大リーグ史上初の3けた盗塁を記録した快足のモーリー・ウィルス(ドジャース)は「アブさん」と呼ばれた。日米球界の懸け橋となった鈴木惣太郎がスポニチ本紙で紹介していた。掲載は104盗塁の翌年、1963年3月1日付だった。

 アブは<うるさい走者を意味する>。日本でいうハエやカと同じだ。五月蝿(うるさ)いである。そして<アブさんは投手の気を散らして味方の快打を狙わせる>。

 俊足走者で揺さぶり、球数も稼いだ。シューメーカーを6回103球で降板させた。結果的にこれが勝因となった。7回表には相手投手の乱調で実に6四球を得て、2度の押し出しに2本の中前2点打で試合を決めたのである。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年5月1日のニュース