「変化球投げたように見えましたか?」から14年 あの人の第3章がスタート

[ 2021年2月7日 09:00 ]

強めのキャッチボールをする田中将(撮影・白鳥 佳樹)
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 居並ぶテレビカメラの前で、表情が険しくなった。物怖じすることのない18歳が放ったひと言は、まだ鮮明に覚えている。関西出身でもない記者は頭の中で「おもろいやっちゃ」と思った。14年前の2月1日のことだ。

 鳴り物入りでプロ入りして迎えたキャンプ初日。熱視線を浴びたブルペンでは直球のみ、63球を投げた。午後3時20分から始まった囲み取材。テレビ局の代表取材者が「初ブルペン。変化球は投げたんでしょうか?」と質問した時だった。

 「えっ?投げたように見えましたか?」

 間違いなく、質問自体がアウトだ。ブルペンで変化球を投げていたか投げていないかを、選手に聞くなどあり得ない。とはいえテレビカメラが回っている状況。高卒1年目のルーキーが表情を強ばらせて聞き返す、というのもなかなかない。やり取りを見ながら「大したもんだなあ」とも思った。

 7年後の14年。キャンプ初日は2月15日だった。8分間に制限された初ブルペンでは、32球を投げた。「いよいよ始まったなという感じですね。すごく新しい刺激と言いますか、今までにないものがあるのですごく興奮しました」。その日の練習後の取材は、広い会見場だった。初対面だった米メディアとの問答。「時が経って5、6年経ったときに今日のどんなところを思い出すと思うか?」。25歳になった彼は「1マイル走きつかったなあ、という…」といたずらっぽく笑った。全体練習最後のメニューだった1マイル(約1・6キロ)走で苦悶(くもん)の表情を浮かべた。「ヤンキースが大金を投じた投手がランニングで息切れ」と翌日の地元紙。だが、それが逆に、チームに溶け込む一助になった。

 さらに7年後の今年である。32歳になった彼は6日、21年のスタートを切った。プロでの第3章の初日。「いよいよだなという気持ち」。7年前とほぼ同じ言葉である。14年前よりすっかり体は分厚くなり、眉毛も細くなくなった。目元のシワもちょっと深くなった、と思う。

 彼の口からよく聞くフレーズがある。「自分がコントロールできないことを考えてもしかたがない。コントロールできることをしっかりやるしかない」。だからこそ、1週間前のひと言が、心に残った。

 「FAになった時点は正直、ヤンキースと再契約して、まだプレーしたい思いはあった」

 契約はコントロールできないものの1つ。それでも、彼は思いのままを語った。誰もが聞きたかったことに対し、本心を隠さなかった。正直で素直。人を惹きつける魅力は、14年前から少しも変わっていない。

 恩師にあたる野村克也氏の言葉で、彼も時折使う言葉がある。「評価は他人がするもの」。きっとこの1年、そんな言葉も胸に戦うのだろう。そして1年後、また新しい評価を作り上げた「田中将大」の第4章の始まりに期待している。(記者コラム・春川 英樹)

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2021年2月7日のニュース