神奈川・立花学園、休校中も“部活”――オンラインがつなぐ高校球児の夏の夢

[ 2020年4月11日 06:00 ]

コロナで野球が消えた【高校野球】

 新型コロナウイルス感染拡大の影響は高校野球にも大きな影を落としている。3月の選抜高校野球大会に始まり、春季県大会や地区大会も中止が相次いでいる。そんな厳しい状況の中でも「今できること」として、オンラインを活用しながら休校中の「部活」を運営しているのが神奈川の立花学園だ。その取り組みを取材した。(松井 いつき)

 午前7時。立花学園の「ミーティング」が始まる。といっても、アプリ「Zoom」を使ってのビデオ会議だ。選手が自宅からスマホなどでログインすると、志賀正啓監督(33)や吉田大育コーチ(28)が見守るノートパソコン上に選手の顔が次々に映し出される。学校は2月29日から休校。野球部も活動休止中だが、選手はオンラインで毎日、顔を合わせている。

 選手の状態をチェックするのが、主な目的。志賀監督は「寝ぼけ眼で入ってくる選手もいますが、顔を見て様子を確認できるのが良い。髪形や服装は大丈夫かな?とか」とメリットを説明する。画面を通してサインの確認を行ったり、「集中力を養うためにコインを使ったトレーニングを全員でやったりもしました」。選手の間でも「みんなの顔が見られるので安心」「自主練しているので、気になったことを聞いたりできる」と好評だ。

 立花学園は甲子園出場こそないが、昨秋県大会では激戦区・神奈川で8強入りした強豪。17年4月に就任した志賀監督は積極的にコミュニケーションツールを活用している。時間を有効に使うために、コンディショニング管理アプリ「アトレータ」で練習日誌を入力。監督が伝えたいことや対戦相手のデータを共有し、選手は体に痛い箇所があればアプリを通じて申告する。高校では珍しい簡易型弾道測定器「ラプソード」も早い時期から導入。志賀監督が「学校はスマホ禁止ですが、練習ではスマホでメモしたり、動画を撮る選手が多い」と話すように、新しいものを受け入れる素地があった。

 今回も部活動ができなくなると、最初はユーチューブを使い、監督が打撃フォームなどを解説した動画を限定公開していたが、「やはり選手の顔を見たい」と「Zoom」を導入。現在は「アトレータ」も並行利用し、選手が自ら撮影した動画をアップし、指導を仰ぐこともあるという。

 積極的にIT技術を活用し、ピンチをチャンスに変える。「誰もやったことがないことに飛び込む姿勢を見せたい。何事も怖がらずに対応していけば、この先、必ず役に立つ」と志賀監督。3年生は夏の大会が今年最初で最後の公式戦となる。休校中の時間を有効利用した成果は必ず夏に表れるはずだ。

 ▽立花学園 神奈川県の私立高校。1928年(昭3)松田和洋裁縫女学校として創立し、62年に男女共学化、92年に現在の校名になる。野球部は昨秋の県大会で8強進出。OBにソフトバンク育成の日暮矢麻人外野手がいる。

 ▽Zoom(ズーム) オンライン上でビデオ会議を行うことができる通信アプリ。パソコンやスマートフォンなどの端末を使い、遠方にいても会議に参加できる。スポーツ界では、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、選手や関係者が同アプリを使って会見や取材対応を行うケースが増えている。

 《「ボールパーク化」目指す キャラクター人形も制作》立花学園はオンライン活用のほか、「ボールパーク化」計画を掲げ、グラウンドに来た選手の弟や妹を飽きさせない工夫や近隣の人にも来てもらえる環境づくりを目指している。マネジャーが中心となり、子供向けの絵本や部のマスコットキャラクターの人形を制作。多くの人に見られることに慣れるために野球部公式ツイッターを開設し積極的に情報を発信している。

 《都新宿はLINEで「リモート指導」》都新宿(東京)では連絡用に使っていたLINEで「リモート指導」を始めた。選手が自宅などで撮影した動画を田久保裕之監督に送り、監督がプロ選手などの動画なども交えながらアドバイスを送ったり、近況を語り合ったりしている。
 「選手の気持ちを切らさないようにしたい。どれだけ“チーム”を感じられるかが課題」と田久保監督は言う。他競技では、すでに全国高校総体予選が中止となるなど部活自粛中に引退となってしまった3年生も出ている。同校は進学校なだけに勉強へシフトする選手も出てきているのが現状だ。
 野球部の3年生は夏の大会が今年最初で最後の公式戦。夏の大会の開催も不透明な中、「1日1回はチームを感じることで、絆を保とうとしている」と指揮官。各地の学校現場では感染予防だけでなく、経験のない不安を抱えながら過ごす選手のケアにも試行錯誤が日々続いている。

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