常識覆す「栗山流オープナー」に込められた狙いと願い

[ 2019年4月29日 10:00 ]

4月23日、日本ハム先発の杉浦は5回完全も6回にはマウンドに上がらず(撮影・高橋茂夫)
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 もしあなたが、どこかの球団のGMだったらどちらの投手を欲しいと思うだろう。

 先発で5回4失点と4回無失点の投手。その登板を繰り返した場合、前者は年間で2桁勝利を記録する可能性もあるが、後者は0勝だ。野球は記録のスポーツも数字と貢献度は必ずしもイコールではない。80年以上の歴史があるプロ野球の常識を疑い、行動に移す。日本ハムは栗山英樹監督(58)を筆頭に、それを実践する。代表される新戦術がメジャーのオープナー(※)にヒントを得て、球数や状況に応じイニング数を柔軟に決める「栗山流オープナー」だ。

 先発は相手打線との2巡目以降の対戦で失点が増える傾向にある。実際、昨季は先発だった加藤を例に挙げると3回まで被打率・246が4回以降は・317。近年、チームには、この「2巡目の壁」に苦しむ成長途上の若手が多い。新戦術に「先発は勝利投手の権利が発生する5回を投げるのが仕事」という考えはない。よって序盤からペース配分することなく予定球数まで全力で投げる。結果、4月18日のオリックス戦で金子は54球で5回1安打無失点、同23日の楽天戦で杉浦は65球で5回パーフェクト。首脳陣には百戦錬磨の金子を除く若手に対しては「この経験を生かして先発完投型に成長してほしい」という願いもある。

 限られた補強費でチーム編成する日本ハムの監督は勝利と育成を同時に求められる。よくありがちな「数年後に投手王国を築いて優勝するために今年は育成する」という考えはなく、毎年、ファンのために優勝を狙う。むやみやたらなFA補強を行わず若手の成長を促すため、計算できる先発が少ないシーズンも多い。今季もキャンプから時間が経過していく中で開幕時をイメージした際、軸となる先発は上沢、有原ら少人数で、3月下旬には昨季10勝のマルティネスも故障で離脱した。そんなチーム事情も新戦術の採用を加速させた。

 栗山監督は「野球への恩返しが自分の使命。もっと野球には可能性がある。だから何かをすることで批判されるのは覚悟の上」と力を込める。コーチ経験もない中で12年に監督に就任し、今年で8年目。オファーをくれた球団、北海道のファンへの感謝の思いは強い。

 吉村浩GMも新戦術に応じた査定を導入するなど全面的にバックアップしている。野球に答えはない。だから常識を覆すことが正解で、現状維持が不正解でもない。ただ、挑戦しなければ新しいものは何も生まれない。(記者コラム・山田忠範)

 ※ オープナーは昨季にメジャーのレイズが導入し、広まった投手起用の新戦術で救援投手を先発させ、2番手で本来の先発を起用する。最初に投げる人という意味で「Opener」と呼ぶ。メジャーは2番に強打者を置く球団が多いため、力のある救援投手で初回を抑えるのが狙い。日本ハムの起用法は本来のオープナーにアレンジを加えたもの。派生形として、救援陣だけで継投する「ブルペンデー」がある。

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