10年後を予見していた松坂の言葉…タイブレーク導入、変化で生まれる“新伝説”に期待

[ 2018年8月7日 10:40 ]

<旭川大高・佐久長聖>甲子園初のタイブレークの熱戦を制し、歓喜の佐久長聖ナイン(撮影・北條 貴史)
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 日本から大リーグの取材に行くと決まって米メディアから聞かれることがあった。「○○のハイスクール(高校)の時のエピソードを教えてほしい」。中でも、レッドソックスの松坂(現中日)が「全国大会(甲子園)で250球投げた」と話すと「クレイジーだ」と驚かれた。そして「真夏だろ。日本の気温は何度なんだ?何で球数制限の議論が起きないんだ?」と畳みかけられた。

 当時は「日本と球数制限に縛られたメジャーとは文化が違う」とも「高校野球は独自に積み上げてきた歴史が違う」とも思っていた。つい最近まで、人為的な状況設定から勝敗を早期に決めようとするタイブレークは高校野球にはそぐわないとまで考えていた。

 しかし、考えは改めた。7月に久しぶりに地方大会に足を運び、熱中症対策で試合を中断するシーンを目の当たりにし、甲子園でも、グラウンドで足をつる選手の姿を見ると「選手に納得行くまで…」という意見や、見るものの「激闘の美学」などは言ってられないと感じた。山梨大会決勝では、試合後に氷の入ったビニール袋を首筋に当てて横たわっていた選手もいた。米国で気温40度を超える日に、屋外での試合前練習をまったく行わなかったり、試合での球数も100球どころか80球で交代させたりする意味も、理解できるようになった。

 08年の北京五輪でタイブレーク制度が導入された時に松坂が話してくれた言葉を思い出した。「高校野球にタイブレークが導入する日が来るかもしれません。僕も高校の時はそうでしたが、(高校球児は)自分から“交代してください”とは言いません。ただ、国際的な流れもそうですし、将来ある若い才能が、その影響で選手生命をたたれるほど野球界にとってマイナスなことはないと思います」。10年後に実際に甲子園でタイブレークが導入される日が来るとは当時思いもしなかったが、松坂は将来の変化を予見していたのだとも思う。

 今後は見る側にも覚悟と変化が必要になる。「延長○○回の激闘」といった類いのドラマは消えるだろう。だが、新しい伝説は生まれる。2年ほど前に日本高野連がタイブレークの検討を開始した時の松坂の話も紹介したい。

 「歴史や伝統があればあるほど、変化には抵抗がある。ただ、ルールが変われば今までになかったドラマは必ず生まれると思います」

 選手が1球に、1プレーに、すべてを注ぐ姿は今も昔も変わらない。タイブレーク導入の是非よりも、変わらぬもの、そして新たな変化を敏感に感じ取っていきたいと考えている。(記者コラム・倉橋 憲史)

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2018年8月7日のニュース